劇場公開日 2018年8月3日

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「笑える、けど笑ってイイのか?」スターリンの葬送狂騒曲 つとみさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5笑える、けど笑ってイイのか?

2023年12月17日
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鑑賞方法:DVD/BD

この映画はブラック・ユーモアに溢れている。あまりにブラック過ぎて、コーエン兄弟の映画を観ているのかと思った。ブシェミも出てるし。

序盤のラジオ・コンサートと深夜の夕食会が交錯するシーンが全てを物語っていると言って良いだろう。
腹相撲(?)に興じるフルシチョフとベリヤ。スターリンの電話一本に翻弄される国民たち。
一方は多分シベリア送り、もう一方はコンサートの再録。両方を描くことでコミカルさが強調されているのがいい。

「スターリン・ノック」が横行する深夜のモスクワは、笑っちゃうくらいどんどん人が死ぬ。笑っちゃう、のだが笑ってはいけないような気持ちになる。何たってこれが歴史の事実なのだから。

孤独で、猜疑心に満ちたスターリンの死はだいたい史実通りだ。晩年のスターリンは暗殺を恐れ、どの部屋で眠るのかさえ直前に決めるほどの念のいれようだったらしい。
スターリンの大粛清を一番恐れていたのはスターリン自身だったのかもしれない。

彼の死後、覇権を賭けたサバイバル椅子取りゲームが始まるのだが、これまたルール無用の壮絶なバトルロイヤルだ。
昨日通用した処世術は、今日の生き残りに何の役にも立たない。さっきは権力の中枢にいても、すぐに滑り落ちる。滑稽にすら思えてついつい笑ってしまうけど、本当に不謹慎。
とにかく皆自分のことしか眼中になく、潔いまでの日和見を繰り出すのだから仕方ない。

この映画を観るのに、大して知識は要らない。スターリンが独裁者であること、気に入らなければ「人民の敵」として粛清されてしまうこと、そしてそれが確かに歴史上存在したことさえ解っていれば充分だ。
ボスへのおべっかなんて、平和ボケした日本にだってある。違いは死ぬか死なないか。それだけ。

歴史の教科書によく出てきた風刺漫画、あるじゃない?あれの映画版だと思うとちょうどいい。
思いっきり誇張して、純粋な事実とは言えないかもしれないが、これを笑って観られる現代は幸せだ。

ベリヤとフルシチョフの立場がだんだんと入れ替わっていく辺り、最高に興味深い。あまり有能すぎるのも考えものなのかもしれない。
狙われないためには凡庸な方が良い、とはなんて皮肉!

歴史は繰り返す、という。こんな歴史が繰り返されることの無いよう、というメッセージだけはちゃんと頭に入れておかないとね。

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つとみ