「大杉さんの遺作に相応しく、生と死について深く考えさせられる作品!」教誨師 Ryuu topiann(リュウとぴあん)さんの映画レビュー(感想・評価)
大杉さんの遺作に相応しく、生と死について深く考えさせられる作品!
私は、個人的に教誨師と言う職業に凄く興味が有ったので、この作品とても気に入りました!
ですが、本作を自分は好きだから、みなさんに、どうぞ観たら良いよとドンドン薦められる様な性質の作品でも当然無い訳です。
決して万人向けの作品ではないのですが、教誨師の行う仕事内容を判っていて、尚本作を観られた方々はおそらく、私同様にみなさん満足して、映画館を後にする事が出来たのではないだろうかと想像していますが、どうでしょうか?
主人公の職業上、映画の95%は教誨師と死刑囚との1対1の会話が続くわけです。
映画では、死刑囚が6人も登場するので、それぞれの受刑者に個性を持たせて描いていれば、観客は飽きずに楽しめるだろうと言う事でも決して無いです。
確かに本作では、なるべく観客が飽きない様な工夫は施されてはいましたし、多くの場面で笑いが出るように作られていました。でも所詮は塀の中の人々の言い分を描いている事なので、一般の観客である我々がそう簡単には、彼らの話に感情移入すると言う事も中々困難です。
そこで当然、観客の殆どの人達は自然と大杉さんの演じる教誨師に自己を投影する事になる。
そうするともう自然と劇中の話の総てが他人事ではなくて、自分に投げられた直球に変化して来るから不思議ですね。
作品の中で交わされた会話の総てが自分へ語られた言葉になる。
どんどん会話の世界に引き込まれていく事になるのです。
すると、カメラが固定されていて変化に乏しい筈の画面を観続けていても、決して飽きません。
更に、教誨師が対峙する様々な死刑囚との会話の中で生まれる彼の葛藤や心理的な変化、やがて明らかになる教誨師の抱える苦しみも、気が付くと観客も追体験しているような錯覚になります。
何だか、急逝された大杉さんが、初めてプロデュースしてまで、本作を撮りたかったと言う気持ちも迄も理解出来る気がしてくる。
本作は映画ではあるけれども、物語の性質上、舞台劇であっても全く不思議ではありません。
最近公開された「累」も舞台劇の様な要素が沢山有りましたが。本作には「累」の様な派手シーンは全くありません。あちらが仮に動の世界なら、本作は静の世界でしょう。
本作はあくまでも静かに会話だけが交わされていくのですが、きっと観客の心の内は静の世界から動の世界へと大きく揺さぶられる事になったと思います。
この秋じっくりと、自分の感情を見つめて過ごしてみようと考えておられる方には、本作は最高のプレゼントになるのではないでしょうか。
そしてこの作品のラストがとても効果的な終わり方で、とても気に入りました。
是非、御一人で過ごすお時間が有ったら本作観て欲しい気がします。「何だ、結局お前は本作を薦めているだけで、これはレビューでも何でもないじゃないか」と思われるでしょう。でもやはり私は本作の世界を堪能して欲しい!あなたにもこの死刑囚たちに出会って欲しい。それが本作に触れた私の正直な気持ちです。
大杉さんの早過ぎる死を悼み、ご冥福を心からお祈りします。