「完全に策に溺れた作品」ザ・プレイス 運命の交差点 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
完全に策に溺れた作品
「おとなの事情」はあんなに面白かったのに・・・である。
「おとなの事情」で、ホームパーティーに招かれた夫婦たちの内情と過去と本音を、パーティーの席というワン・シチュエーションで切り取った巧みな会話劇を十分に楽しませてもらい、今回もかなり楽しみな作品だった。パオロ・ジェノベーゼ監督がもともと会話劇を得意とする人物なのか、あるいは「おとなの事情」の成功から会話劇を続投することにしたかは詳しくないが、今回の「ザ・プレイス」も、カフェの一角に座る謎の男と、彼のもとを訪ねてくる者たちとの会話だけで物語を成立させていこうという仕組み。その挑戦と試みは面白いと思うものの、ただこの作品に関して言えば、完全に「策に溺れた」感が否めない。
とりあえず、次々に表れる登場人物の背景と交わした取り決めを頭の中で整理するだけでもまず一苦労。まさかノートにメモを取りながら観るわけにもいきませんしねぇ。
また訪れた人間が謎の男に自分のことを話す、という設定上、どうしても台詞が説明調に陥りがちで、シーンとしても単調になりがち。奇しくも、ワンシチュエーションの会話劇という点で共通項のある「ギルティ」を同じ日に観たのだけれど、正直なところ雲泥の差。片や「会話だけでここまでサスペンスフルになるのか!」という驚きと、片や「会話だけだとここまで単調になるのか・・・」という驚きの両極端でした。
そして自らの欲望のために、殺人・強盗・テロと言った課題をこなさなければならない、というところのサスペンスと痛烈な風刺が、最後まで効いてこなかったのが大きかったのではないかと思う。そうまでして叶えたい願いか?自分の欲望のために他人の命を奪えるのか?そういった問いかけにまで映画が到達しないまま、それぞれ勝手に自己完結して終わったような印象だった。
いやはや今回は、完全に策に溺れてしまったと思います。