劇場公開日 2018年12月22日

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シシリアン・ゴースト・ストーリー : 映画評論・批評

2018年12月11日更新

2018年12月22日より新宿シネマカリテほかにてロードショー

誰かの心のなかで人が生き続けることの美しさを描く、幻想的な純愛譚

冒頭、水のしたたるごつごつとした岩肌が映し出される。その水は地下の洞窟に流れ、まるでその先には、我々が知らない世界が、何千年も前からひっそりと存在しているかのようだ。清らかでひんやりとした水は、この映画で我々を冥界に導くメタファーである。ジャン・コクトーの「オルフェ」で、オルフェが鏡を抜けて冥界に入るように、ヒロインのルナもまた、湖の底から、捕われの身となっている最愛の人に会いに行く。

13歳のルナは、同級生のジュゼッペに密かに恋をしている。ようやく、半ばハプニングのように手紙を渡したルナの気持ちを察していたかのように、ジュゼッペはその朗らかな笑みで彼女を包む。だがその日を最後に、彼はぷっつりと姿を消してしまう。

沈黙を通す周囲の不気味な反応に、幼いルナにも、村に起きている異常な事態が次第に飲み込めてくる。だがルナは諦めない。臭いものに蓋をしようとする人々が、ジュゼッペを忘却の彼方に追いやろうとするなか、ルナだけは、大人たちの無慈悲な世界に反逆するかのように彼を捜し続ける。大切な存在を突然失ったルナの視点から描かれる物語は、彼女の一途さ、純粋さゆえになおさら、きりきりと胸を締め付ける。

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本作の元になっているのは、シチリアで93年に起きた、マフィアによる誘拐、殺人事件であり、呆然とするような残酷で悲しいストーリーだ。だがこの映画は、そんな現実世界のどうしようもない悲惨さに、神秘と幻想を加え、なめらかに寓話に転化することによって、映画として別の次元に到達することに成功している。現実をオブラートに包むのではなく、かといってまったく寓話として描くのでもなく、あたかも「その世界」は我々に見えていないだけで、じつは現実の隣に存在しているかのような。

きっとルナは彦星を思い続ける織り姫のように、またあの天空で、あるいは森の奥の神秘の世界で、湖の底の別世界で、再びジュゼッペに会えることがわかったのだ。だからルナが最後にみせる表情は、悲しみよりは希望をたたえ、誰かの心のなかで人が生き続けることの美しさを教えてくれる。

佐藤久理子

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