「3人の魂の演技」ラ そらゆきさんの映画レビュー(感想・評価)
3人の魂の演技
とにかく主要3人の演技のぶつかり合いが見事。
もう3人以外は考えられない程この3人だった。
主人公・慎平はゆかりやお金にはダメ男だけど、純粋に音楽のことを考えているがゆえのことなのだと許してしまうのは、桜田通くんによって嫌味のない真っ直ぐさやピュアさが感じられるからだと思う。不安になるくらい邪気のない慎平は桜田通くんの凄いところで、慎平というキャラクターを大きく助けている。歌っている姿や音楽の話をしている慎平は本当に楽しそうで魅力的だし、音楽活動もしている桜田通くんの確かな歌声と歌詞には力がある。慎平のデビュー話に説得力があるし、ゆかりが大好きになってしまうのもわかる。何より、もう劇中歌がとても好きになってしまった。あの曲をちゃんと聴きたい。そして、希望から絶望に堕ちて踏み出すまでの一つ一つの表情の変化も繊細で、見逃せない。これまでにない新たな一面をみせてくれている。この人はこういう表情もするのかと、驚いた。ポスターの泣き顔には、初めて見た時に衝撃を受けた。
笠松将くんの黒やんは、壁は厚く本編では悪いヤツだけど、小さく歌うシーンがすごく印象的で、少しだけ救いだった。一見人当たりも要領もよさそうだけれど、頑固で本音で深くぶつかるのが苦手な人なんだと、ソを観て納得した。作り笑顔で簡単には心を見せない絶妙な感じがリアルですごく良かった。飲み明け、夜明けの道での妙なテンション、ちょっと不気味な笑いが頭から離れないし、殴り合いで唯一本音を吐いたところはグッと来た。笠松将くんの独特な雰囲気のナチュラルな演技が、この映画のリアリティのとても大きな要因になっていると思う。不思議な魅力があって、慎平が黒やんを一途に求めるのがわかる気がした。
福田麻由子さんのゆかりは、福田さんじゃなかったら嫌いになってたかも(笑)。本当に慎平と自分のことだけを考えていて狂気的ではあるけれど、慎平に見せる包容力が凄い。ソとソ♯は、うわぁ…となった。大好きな人のために出せる強さを狂気的な笑顔と言葉に込められたのは、福田さんだからこそだと思った。ゆかりのシーンはいつの間にかゆかりの世界に迷い込んでいるのだが、抜け出した後にそれに気付くという妙な恐ろしさがあって凄いと思った。
本編で綴られる物語の前段階の話からリハーサルを重ね、その役を生きてきた3人だからこその、台本通りではなく役者側からも提案して作っていったというシーンや、アドリブで撮っていったというシーンも必見。役者側からの熱もかなり熱い。
この映画は慎平達の人生の一部という、桜田通くんの言葉にすごく納得した。
この先、消えない過去や罪に震えるかもしれない。
慎平は周りが見えなくなってしまうクセで、また失敗するかも知れない。黒やんは、闇から抜け出せるかも知れないし、また戻ってしまうかもしれない。あかりは、何かの拍子にまた暴走してしまうかもしれない。
不安は尽きない。
そう感じてしまうことがリアルで、胸が痛くなる。
現実って、こうだよな。。
本当に三人が今もどこかに生きている気がする。頑張れ、と応援したくなる。
一度絶望に堕ちた慎平だからこそ、また歌って欲しい。勿論、黒やんのギターで、あかり達が見守る中で。
わかりやすい映画ではないけれど、観る毎に面白くなる。心のどっかに染みる映画。
追記
ダンカンさんも凄く良かった。普通の、ちょっとお節介な人。不安な時とか弱ってる時って、ああいう人のお節介な優しさに救われたりするんだよなぁ。慎平を横目で見るとこ、映画2回観て2回とも笑った。