「冷めたコーヒーはイマイチ」コーヒーが冷めないうちに 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
冷めたコーヒーはイマイチ
過去に戻って大冒険をしたければ野比家の机の引き出しへ、僅かな時間だけ過去に戻って小さな幸せを見出だしたければ喫茶“フニクリフニクラ”へ。
過去に戻る事の出来る不思議な喫茶店。
そこに集う後悔を抱える客たち。
客を過去に送る女性店員。
彼らが織り成すハートフル群像劇。
過去に戻る方法がかなりユニーク。
アイテムは、コーヒー。
コ、コーヒー…!?
コーヒーを注文し、店員の数が注げば過去に行ける。
しかし、面倒なルールが幾つも。
必ず、指定の席に座らなければならない。
会えるのは、この喫茶店に来た事がある人物だけ。(つまり、以前この喫茶店に訪れた時の戻りたい日にしか戻る事が出来ない)
そして、一番のルール。過去に戻って居られる時間は、数がコーヒーを注ぎ、コーヒーが冷めるまでのほんの僅かな間。しかも、それまでにコーヒーを飲み干さなければならない。もし、飲み干さなければ…。
こんなSPメニュー級の超限定ルールで過去に戻りたい人なんて居るの…?
しかし、噂を聞きつけ、過去に戻るのを望む客は後を絶たない。
戻りたい理由はそれぞれ。
海外に経った幼馴染みに想いを伝えたいという恋絡みや、認知症になる前の妻や不慮の事故で死んだ家族にもう一度会いたいという真摯な理由まで。
ルールがもう一つ。過去に戻っても、起きた出来事は変えられない。
つまり、不慮の事故で死んだ家族に死ぬ運命にある事を伝えても、悲しい事に死ぬ運命にあるという事。
不条理ではあるが、納得もいく。
過去に戻ってこれから起こる事を変えられるなんて、無責任で傲慢でもある。
それが原因で、他にどんな問題が起きるかもしれない。タイムスリップ映画あるあるで、決していい事なんて無い。
それでハッピーエンドになるのは、娯楽かリアリティー無視のSFか子供向け漫画だけ。
一度起きてしまった事は変えられない。しかし…
後悔を正す事は出来る。
あの時伝えられなかった事を伝える事は出来る。
例え変わらなくとも、より良い一歩を踏み出す事が出来る…。
有村架純も可愛いし、キャスト陣も好演。
ユーモアあって、ハートフルで、涙も誘って…。
画に描いたような優良品。
でも何と言うか、型にハマり過ぎと言うか、甘々でご都合主義と言うか…。
ジャンル的には『ツナグ』のような作品だが、作風は吉永小百合が営んだ『ふしぎな岬の物語』のファンタジー版と言った感じ。
客の描写はステレオタイプ。
悪人は一人も出て来ない、サザエさん的ファンタジーの世界。
客を過去に送りながらも、実は自身も過去に戻りたい理由があるという定番。
有村演じる数とイケメン大学生のロマンスは、有っても無くても良かったような…。(でも一応、数が過去に戻る方法の伏線…?)
過去に戻れる席に毎日座り続けている謎の女性と数の関係。が、途中で察しは付く。
ここが物語の一番の泣かせポイントだろうが、確かに感動はさせるが、別に4回も泣けはしなかった。(と言うか、1回も泣きはしなかったけど…)
代々客を過去に送り出す事が出来るのは、数を含め時田家の女性のみ。が、自分で自分を過去に送り出す事は出来ない。遂に閃いた数を過去に送る方法は、突飛過ぎて、オイオイ…。
悪くはない点もあったが、ツッコミ所や難点も多々。
美味しそうなコーヒーが冷めて、何だか惜しいような味。
何か足りないと思ったら、近大さんがいうように「悪人」がいませんでした。
世の中には、浜の真砂ほど、悪人や意地の悪い人はいますからね。
この話に感動できないような僕は、悪人の部類かも。