「心の片隅に眠る”あの時”が蘇る」コーヒーが冷めないうちに とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)
心の片隅に眠る”あの時”が蘇る
もし、私があの席に座ったら、
誰に、いつ、何をしに、会いに行くのだろう?
人生の分岐点、後悔が残る選択、プレイバックしたい言葉、伝えられなかった思い、そんなエピソードは山のように積みあがっているのだけれど…。
試写会で鑑賞した後、
老舗レストランの古めかしい調度類の中で、運ばれてきたコーヒーから立ち上る湯気を眺めながら、しばし自分の人生を振り返ってしまった。
そんな時を与えてくれた映画だが、
映画自体には不満が残る。安易な作り方をしてほしくなかった。
役者は悪くない。
松重氏の一つ一つの表情を見ているだけで、胸が締め付けられ、涙がこぼれる。言葉なんか必要ない。時を重ねた夫婦の奥深さを見せてくれる。
他の方々も力演。
だけれど、何なのだろう?どのエピソードもそれぞれの一人芝居を観ているようだ。相手役が悪いわけではない。相手役もそれぞれ一人芝居をしている。
”ある時点”をやり直さなければいけないような、すれ違っている関係を象徴しているのか?しっくりこない。
そして、騒がしい。
短い時間で、その人が抱えている背景から何から説明しなければいけないから、台詞での説明も多くなる。
人の話を聞かないがゆえに、”あの”席を利用しなければならない人たちもいて、しかも「あの時に戻らなきゃ!!!」と強い意志をもっている人だから、大声・早口でまくし立てるのも人情ということか?
でも、安価なコーヒーショップではなく、”喫茶店”に行くときって、香り豊かなコーヒーをじっくりと味わいに行く時、静かな時間が欲しい時というのは私だけだろうか?
TVでなく、映画館で映画を堪能したい時って、じっくり映画の世界に浸りたいからというのは私だけだろうか?
TV局が絡んでいるのだから、一つのエピソードに1時間ずつ×4話完結で、じっくり見せてくれたら、
二美子の、強がりの裏側、
康徳の、受容の裏側、
八絵子の、後悔の裏側、
数の、愛への不安と”あの”後悔を胸に秘めつつもコーヒーを入れている想い(葛藤?)
も丁寧にじっくりと描くことができて、より共感しやすい物語になったと思う。
せっかく、”静”の演技もできる役者たちが揃っているのにと悔やまれる。
そして、何よりダメ出ししたいのが、最後の総括。余韻に浸れない。
監督と編集・プロデューサーを変えて、撮り直してほしい。
それでも、前出のように役者は見る価値ある。
伊藤氏は私にとって初めてで、何だそれという演出もあるが、今後が楽しみ。エンディングで、ちゃんと年齢かさねている様の演技にも唸ってしまった。
それに、ひと時のファンタジーと思い出に浸る時間も悪くはない。
この映画の宣伝文句「4回泣けます」 - そのうちの何回かは、鑑賞者が(心の中で or 現実に)自分のエピソードと向き合った時なのかもしれない。
そんな時間をありがとう。
(原作未読)