コーヒーが冷めないうちに : インタビュー
有村架純の心に芽生えた「なんて愛しいんだろう」という真っ直ぐな気持ち
もしもあの時に戻れることができたなら――そうした後悔の念は誰しも抱えるものだが、そんな“もしも”が叶う喫茶店が、映画「コーヒーが冷めないうちに」に登場。この不思議な喫茶店「フニクリフニクラ」を舞台にした本作で、有村架純は主演の時田数を演じている。本作のメガホンをとった塚原あゆ子監督は、自己主張をせず物静かでありながら、それでいて目をひく有村の存在感を「主演をやる人の天賦の才」と評しているが、彼女自身はこの役を演じるにあたり「悩むことが多くてしんどかった。でもそういうことができる現場は楽しかった」と振り返る。25歳の今、彼女が感じる「演じることの楽しさ」とは何なのか、話を聞いた。(写真/間庭裕基)
「4回泣ける」と話題を集めた川口俊和のベストセラー小説を映画化した本作は、喫茶店に集う人たちが織りなす4つのエピソードからなる珠玉のファンタジードラマ。有村演じる数が淹れる一杯のコーヒーがきっかけで、人々は過去や未来へとタイムスリップする。心に秘めた思いを隠しながら人々を見守る、という役を演じるにあたり、有村には心の中の葛藤を表現する受け身の演技が要求された。「苦しかったですね。数はなかなか自分の本当の気持ちを吐かないので、撮影中はなかなか発散できなくてしんどかった。わたしはわりとそういう引き算の芝居をすることが多いんですが、それでも役によってアプローチは違う。特にこの映画は材料がない中で演じることになったので、どれが正解なのか分からずに悩んでいました。だから監督からのOKが励みになりましたね。最近は女優としていろいろな経験をさせてもらう中で、できることも増えてきましたし、それももちろん成長のひとつだとは思います。でも、わたしはもっと悩んでいたいし、そういった意味ではいい現場だったなと思います」。
物語の大部分が喫茶「フニクリフニクラ」で繰り広げられるということもあり、同所のセットは、キャスト陣が感嘆の声をあげるほどに細部まで緻密に作り込まれていた。「こんなに忠実に喫茶店が作られるなんてと思って、本当にビックリしてしまいました。常連さん向けのコーヒーチケットもあったし、フニクリフニクラのスタンプもあって。あれは待ち時間にポンポン押して遊んでいました。それからレジも(朝ドラ)『ひよっこ』で使ったのと同じ型番のものが置かれていたんですよ。あれがあるだけですごく雰囲気がありますよね。それから映画には映らないソファ席もあったんですけど、ここが柄物のクッションが置いてあったりしてかわいかったですね」という有村。彼女自身、オシャレなカフェというよりは、喫茶店派とのことで、「音楽を聴いたり、本を読んだり、台本を読んだり、時間を過ごしています。だから『フニクリフニクラ』みたいな喫茶店があったらいいのにと思いました」。
「4回泣けます」というキャッチコピーの本作だけに、「わたしも試写を観て泣いてしまいました」と笑う有村。劇中で喫茶店に集う常連客・平井八絵子を演じるのは、女優の吉田羊だ。2015年の「映画 ビリギャル」で”母子”を演じた吉田と有村は、その年の日本アカデミー賞やブルーリボン賞で“母子”受賞を果たすなど、高く評価され、二人にとっても思い入れの深い作品となった。それだけに、今回の「コーヒーが冷めないうちに」で吉田と再共演するということに、感じるところも多かったようだ。「羊さんとは『ビリギャル』の印象が強かったので、こんなに早く共演できるなんて思わなかったです。共演するのは3年ぶりだったんですが、羊さんは相変わらず温かくて、ものすごく落ちつきましたね」。一方、若年性アルツハイマーを患う妻・高竹佳代を演じるのは薬師丸ひろ子。やはり有村とはドラマ「弱くても勝てます ~青志先生とへっぽこ高校球児の野望~」の“母子”役で共演しており、「だからこの(劇中の)喫茶店にはわたしの母親が複数いるんです。この世界ってすごいですね」と笑いながら付け加えた。
有村は、25歳という現在の年齢を「成長するための節目の年」と位置づけているという。くしくも本作の撮影は、有村25歳の誕生日の翌月から始まっている。「女優の仕事を始めたころは何も分かっていなかった。とにかく自分の芝居をやりきることだけで精いっぱいだったんですけど、今は少しずつまわりが見えるようになって。気持ち的には20代前半よりは余裕をもってお芝居をやれるようになってきていますね。自分のペースを大事に出来るようになりました。今はとにかく楽しんでお芝居をしたいというのがあって。それ以外は何も考えていないんです(笑)」。
それだけに女優という仕事に対する思いもさらに深くなっているという。「作品をやるごとに、どうすればこの作品が良くなるのかなとか、こんなにスタッフさんが頑張ってくれているのに『報われないなんておかしい!』みたいな、そういう愛情みたいなものがより深くなっている気がしています。それは芝居とか、作品とか、まわりの頑張ってくれているスタッフさんたちに対する思いなんですが、この人たちのために何ができるかなと考えるようになりました。最近は映画のお仕事も増えてきましたが、やはりひとつの作品をつくるためには、それぞれプロフェッショナルな人たちが集まらなくてはならない。音にしても照明にしても演出にしても、妥協しない人たちが集まって映画が作られるわけで。そういう姿を目の当たりにすると、なんて愛しいんだろう、という気持ちが生まれてくるんです」。