「原作を読まずに見た方は騙される作り」空母いぶき アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)
原作を読まずに見た方は騙される作り
原作はかわぐちかいじのコミックで、「沈黙の艦隊」「ジパング」に続く国防を主題にしたリアリティの高い傑作である。執筆開始の時期は尖閣諸島にCが領土的野望を明確化し始めた時期と重なっており、この問題が執筆の契機となっているのは疑いなく、原作では敵国は明確にCと書いてある。ところが、映画化にあたっては正体不明の東亜連合という架空国家に置き換えられているため、リアリティが著しく削がれてしまっていた。
この国が建国から僅か3年で空母を持っているというのがまたリアリティに欠ける話である。空母の建造には、規模にもよるが、5 年から 10 年の歳月を要するのが普通である。リアリティの欠如はこれにとどまらず、敵機を「スティルス機」と言いながらスティルス機能を持たない Mig であったり、逆に艦載機の F35 はスティルス機であるのに、敵のミサイルでロックオンされて先制攻撃を受けるなど、目を覆うばかりのデタラメな話であった。
いぶきに乗船する艦長と航海長を西島秀俊と佐々木蔵之介が演じているが、特に佐々木の演じたキャラは原作と大きく異なり、自衛官のくせに骨の髄までパヨク教の狂信者のようであったのは全く頂けなかった。作戦立案の際の「戦争にならないための戦闘」という話には原作へのリスペクトが感じられたが、現場はほぼ西島と佐々木のやりとりのみで進行し、国内の様子はコンビニの店内だけで描こうというのは無理があり、映画としての質を低下させるだけであった。
政府の描き方も「シン・ゴジラ」に比べるとリアリティや緊迫感が非常に不足しており、原作では優秀な保守系の総理なのに、いかにも頼りなく描かれているのにも大きく失望を禁じ得なかった。外相の風貌が帰化議員の白眞勲のように見えてしまったのにも悪意を感じた。ただ、世間を騒がせた安倍総理の病気を揶揄したようなシーンというのは、言われなければ気にもならないようなものであった。
原作にない新聞記者の搭乗や情報リークなど、道具立ては無理があり、捕虜を拘束もせずに乗船させて騒ぎを起こされるなど、幾ら何でもお粗末に過ぎると思った。クリスマスの時期という設定になっているようだが、その意味は特になく、無駄にこだわっているのがかなり滑稽であった。
自国を悪く描こうとする映画に巨額の資金を提供してストーリーや登場人物を変更させるといういつものCの手口にまんまと乗ってしまった作品であり、「永遠の0」で新聞記者が追い詰められるシーンが変更され、景浦の若い時をレイプ犯の在日役者に演じさせ、エンディングに反日歌手の歌を流して見せたのと同じ目に遭わされている。
佐藤浩市のスピーチのせいで大騒ぎとなったのは、この映画にとって大きなネガキャンとなった訳だが、それほど目くじらを立てる必要はないと思うし、そもそもそれほど面白い作品ではない。特に、コンビニの店長に中井貴一ほどの役者を起用しながら、あの程度の役しかやらせないというのは非常に勿体ないと思った。
岩代太郎の音楽は相変わらず手堅く、それぞれのシーンに寄り添った曲をつけていたが、戦闘シーンはオケ曲で、内省的なシーンはピアノソロという公式通りの作りには、あとひと工夫欲しかったと思った。
演出には本当に問題があると思った。リアリティをことごとく欠いているのは、脚本もさることながら、緻密さに欠ける演出の責任であると思った。原作を先に読んでしまった人には全くお勧めできない映画であるが、原作を読まずに鑑賞した人には、原作を強くお勧めできるという効能はあるかも知れないと思った。撮影に自衛隊が協力していないという点が、この作品の本質を物語っているような気がした。
(映像5+脚本1+役者2+音楽4+演出1)×4= 52 点。