「ツメが甘いよ、キノフィルムズさん」空母いぶき Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
ツメが甘いよ、キノフィルムズさん
"専守防衛"の言葉すら知らない。そんな国民にこの映画はどう伝わるのだろう。
いま現実に起きている中国や韓国による東アジアの不安定要素を、本作は伝えようと必死だ。そのために本田 翼演じるニュース記者を取材乗船させている。そもそも、そういう人種は本作を見ることすらしないのに(もうちょっと若手イケメンのキャスティングしなきゃ!)。
原作は軍事題材を得意とする、かわぐちかいじの漫画で、かわぐち作品の中でもっともリアルでいまどきの描写がされている。本作品はさらに、"武力攻撃予測事態における先制的自衛権"という問題まで踏み込んでいる。
原作では、まず中国が尖閣諸島を占拠する。そして日本と中国が衝突するというヤバいストーリーである。
空母いぶきが戦うのは、ほんとうは中国である。ところが映画では"国籍不明の武装集団"と矛先を逸らしてしまった。
弱いよ、キノフィルムズさん!でも、超保守的な日本の映画界で生きていくには仕方がないよね。
アンジェリーナ・ジョリー監督の「不屈の男 アンブロークン」(2014)に対する公開反対運動による縮小公開。韓国映画史上No.1の「バトル・オーシャン 海上決戦」(2014)は、超・反日映画で、ついに日本公開されていない(パッケージ版あり)。
日本の映画業界は反日映画を拒否し、日本人が一方的に被害者になる第二次世界大戦映画ばかり作る。ドイツ映画とは雲泥の差である。多様性の意味で偏っているのは、それまた問題である。
ただ日本は日本の主権や領土を堂々と主張すべきである(韓国映画のように)。国内の映画で、中国に気を使わなければならないなら、原作の意義の50%を捨ててしまっていると思う。そこが残念だ。
一方で本作の見どころは、自衛隊装備兵器の実使用を描いているところ。
数字で防衛費を見ることはあっても、よほどのミリタリーマニアでない限り、海上自衛隊や航空自衛隊の装備なんて知るよしもない。
本作は架空の空母とはいえ、搭載戦闘機や護衛艦、潜水艦なども出てくる。リアルな戦闘が何かなんてツッコミはできないが、対空ミサイルがどのような挙動をするのかが見られるのは興味深い。
首相官邸や内閣、外務省のバタバタぶりはどうでもよい。このへんも矛先を丸めすぎている。これなら「シン・ゴジラ」(2016)のほうが娯楽的には面白い。
中井貴一のシーンは、平和ボケのコントラストのつもりだろうけれど、だったら12月公開にしてほしかった。ツメが甘い。
(2019/5/24/ユナイテッドシネマ豊洲/シネスコ)