「まさかの劇場版「〇〇の〇〇」!?」空母いぶき 九段等持さんの映画レビュー(感想・評価)
まさかの劇場版「〇〇の〇〇」!?
やりたかったことは、わかります。
日本が空母を持ったら…という、リアルなテーマを描いた話題作です。
原作の漫画は尖閣を舞台にした対中戦というよりリアルな設定ですが、映画ではそのあたりはオリジナルストーリーに差し替えています。
センシティブなテーマですからオリジナルストーリーにするのはまあ理解はできます。
原作が全てとは思いませんし、時間軸を大幅に変更するのも映画としてはわからなくはありません。
ただそのストーリーが…あまりに残念でした。
まず余計な要素が多すぎます。
原作では数コマしか出てこないコンビニのシーンを中井貴一を立ててしっかりと見せていますが、結局最後までストーリーの中の位置づけが不明なままでした。
守るべき暮らし、の一端を描いたのだと思いますがそれにしてはキャラが立ちすぎていてどう感情移入したらいいか結局最後までわかりませんでした。
また記者がたまたま同乗するというのはアリだとしても、あまりに記者に信念がなさすぎだと感じました。
少なくとも原作では「官製ではない、自らの報道を通し戦争を防ぎたい」という強い信念を持った記者がいたわけですが、今回同乗した2人の記者は言われたまま何となく撮ってヤバそうだからとりあえず流して…
もしかすると現実の記者もその程度かもしれませんが、本作においてはきっかけ以外にそこにいる意味、深みがまるでありませんでした。
衛星携帯の使い方もめちゃくちゃですし(あんな高速で通信ができ、かつアンテナを衛星に向けないばかりか閉鎖環境でも完璧に電波を拾う衛星携帯なんてまるで夢のようです)、情報の受け手である本社側もネットニュースと言う割にやっている事はユーチューバーの延長みたいな人たちで辟易しました。
さらに、役者の人たちの演技もバラバラ。
公開前に話題になってしまった佐藤浩市の垂水総理役を含め、個々で見れば決して悪くありません。
ですが、ストーリーにまとまりがないため悪い意味で演技がぶつかってしまい、結局誰も存在感がなかった印象です。
艦長役の西島秀俊もキャラクターを意識しているのはわかりましたが、終始口角を上げた謎の表情に違和感を覚えました。
極めつけは戦闘の結末。
基本的な展開や艦隊としての戦術は原作がベースとなっていますが、肝心の決着が異なります。
なんと、各国の原潜が合同で魚雷を使い警告し、浮上したのち国連の旗を立て戦闘の終結を促すというまるで「沈黙の艦隊」さながらの超展開。
同じかわぐちかいじ氏の作品ですから自然と言えば自然ですが「空母いぶき」と銘打っておいてこれはナシでしょう。
別に100対0で完勝する必要は全くありませんが、ここまで戦っておいて最終的に一番効果があったのは「サイレントセキュリティーサービス フロム ザ シー」だったのかと思うと、これを映画化する意味がどこまであったのか考えさせられます。