「居心地の悪さが堪らない」母という名の女 KinAさんの映画レビュー(感想・評価)
居心地の悪さが堪らない
映画でも実生活でも、女って怖いなんて安易に思うことは無いけど、アブリルの強かさと恐ろしさはなかなか強かった。
「母性なんて無い」のキャッチコピーとポスターのビジュアル、その構図が鑑賞後ジワジワ来る。
17歳とかなり若い親であるバレリアとマテオが意外にもしっかり赤ちゃんを愛している様子に関心していたら、どんどん危うい展開になっていく。
カレンなのか、マテオなのか、そもそもバレリアの持っている幸福を奪うことなのか。
アブリルの欲望の先が暗く深く、それを満たし叶えるための周到な固め方に震えそうになる。
マテオに裏切られたと思った際の、泣き叫ぶカレンを置き去りにするシーンは今までの態度との差に本当に恐ろしくなった。
それにしてもマテオの自我の無さはなんなのか…
普通そこでアブリルに傾くか?最初は意外と悪くないヤツかもと関心していたけど、一転二転する彼の変わり身の早さもなかなかゾッとくるものがある。
バレリアの行動力と思い切った決断に最後はホッとできる。
でもこの後どうするのだろう?ひとまず解決、と言いたいところだけどその前途多難に思われる境遇に、一筋縄にスッキリできない心暗さがある。
まあ自業自得とも言えてしまうんだけども。
序盤の、あどけなさのある顔つきの彼女のお腹が膨れているビジュアルの違和感もすごかった。
板挟みもいいとこな姉、クララのフラストレーションを思うと頭が痛くなってくる。
特に役に立つことも無くやや不憫な扱いを受けながら映画の空気として居たけど、観客の目線に一番近い存在でかなり重要なキャラだったと思う。
何か特別なことは特にしていないけど…
アブリルとバレリアの確執について多くは語られないけど、あれじゃあ過去に一悶着二悶着あったろうなと容易に想像できる。
無音のまま流れるエンドロール、スクリーン内にポツポツいる観客の身じろぐ音だけが聞こえて、その何とも言えない居心地の悪さがこの作品にぴったりで堪らなかった。面白かった。