「チェリーソーダ」死の谷間 いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
チェリーソーダ
単に炭酸水という子供じみた甘い飲み物なのか、それとも、童貞嫌いなのか、何ともダブルミーニングが散りばめられたような奥深い作品である。
そもそもの舞台が核戦争後の世界が舞台であり、その中に一人取り残された田舎娘が、黒人の男を発見し、そこから又、別の白人の男を見付ける、その奇妙で微妙な三角関係を丁寧に描くサスペンスである。ジャンルはSFだが、まぁ設定がそんなディストピアだからであろうが、これはヒューマンドラマであろう。そしてテーマは『アダムとイブ』、『信仰と科学』、『嫉妬と愛憎』。
シーンでの丁寧なストーリーテリングは、ここ最近お目に掛けない程の出来である。各役柄のキャラ設定や、性格や過去の出来事紹介を過不足無く分かり易くシーンに溶け込ませているから、ストーリーに没入しやすい。これはテレビドラマではないのかと見間違うほどの丁寧さである。その中から娘と科学者の心の移ろいや嫉妬、狡さが存分に表現されている。『大事にしている教会を壊さなければ電気を作れない』のは、君の心がそれを神聖化しているからだという件は、この女性にとっては心に響く言葉である。それは理性と感情のどっちを取るのかという究極の選択をもたらし、人間の業の深さに女は苦悩する。都会と田舎の対比も非常に解りやすい。上手くいきそうでいかないそのシーソーゲームのような展開も面白い。男同士の静かな鬩ぎ合い、しかし最後には女の弟を見殺しにしてしまった科学者の覚悟が勝ったようなラストに、この話のどす黒さ、深淵が心にジワジワしみ込んでくるようでとても秀逸な鑑賞をさせてもらった。ここまで痒いところに手が届く説明的シーンが続くのに、しかし男同士の結末は直接描かない、ギリギリの緊迫感で終わらせるのも、絶妙なさじ加減である。
女が奏でるオルガンの賛美歌が、この作品の中心を作っていてその劇伴の素晴らしさも併せて評価したい。
最後にマーゴット・ロビーの好演技に拍手を贈りたい。でも、確か脱ぐんじゃなかったっけ?w