「触るのは1日2回迄」ブリグズビー・ベア いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
触るのは1日2回迄
ライムスター宇多丸氏の映画評で観に行く動機になったのだが、実はそれまでこの作品の存在自体知らなかったのだ。それはひとえにこのタイトルの読みづらさ。“グリズリーベア”とゴチャゴチャになってしまい、多分記憶からゴミ箱へ棄ててしまったのであろう。
そして、観終わった後の評価の180度の転換は久しぶりに味わった作品である。アメリカ映画の良心がギッチリ詰まった内容で、心温まるという表現しか当てはまらない作品だ。
最後のジェダイでのルークスカイウォーカーの台詞は、今作品の台詞の方が良かったのではないかと思う素敵な金言である。『信じるべきは予言より家族だ』、『忘れるなよ、強くあれ』等々。マーク・ハミルは確かに今作品では輝いていた。
コンセプトとしたら『浦島太郎』の話なのだろうか。戻ってみたら何もかも変わっていた、いや、元々過ごしていた世界が虚構で、帰ってきた世界が本当。それはジム・キャリーの『トゥルーマン・ショー』を彷彿させる。勿論自覚と無自覚は違うのだが・・・
ディテールの部分の甘さや少々のご都合主義は、あくまでもハートフルコメディとしての作りなので余りそこをクローズアップはしない。それ以上の偏愛を落とし込んでいるところが今作品の正にチャーミングなところだ。主役の男の魅力がどんどん周りを引寄せ、味方にいなっていく。だれもが腫れ物を触るような態度を現わしているのに、それでもガンガンと前のめりに自分の信じた道を突き進む姿はそれだけで清々しい思いになるのである。それはおぞましいこととはいえ、あのテレビシリーズを一人の人間の為だけに作った男への畏敬の念さえ感じ取ったのかも知れない。だからこそ、その世界観を成就させることの方が、彼の成長を促す唯一の方法であることを悟ったのである。それは、ラストの映画上映後の幻のブリグズビービアが、腕時計型装置に手を掛け消えていったように、主人公の一つの達成を表現したハートウォームな演出で全てを語っている。
大変素晴らしい作品なのだが、とにかく宣伝が余りにも少なすぎて、世に広めることが出来なかったのが非常に残念だ。