「ある意味ホン・サンス監督作の入り口として最適な一作」それから yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
ある意味ホン・サンス監督作の入り口として最適な一作
夏目漱石の代表的小説を原案の一つとした本作(夏目漱石に言及する場面もある)。文芸作品を下敷きにしているということで、高尚な人間ドラマを予想しがちですが、本作の物語ははっきり言って下世話そのもの。妻に浮気相手の存在を知られて、しらばっくれているうちに別のスタッフが巻き込まれる、とまとめてしまえば元も子もないのですが、実際そういう話なのだから仕方ありません……。
やや武骨な印象を残しつつ、サンス監督作品ではあくまで柔和な人物を演ずることが多いクォン・ヘヒョですが、本作ではものすごく隠し事が下手な出版社社長に扮しています。開き直ったときのしらばっくれた表情のなんとも言えない憎らしさには、さすが名優と妙に感心してしまいます。
本作を含め多くのサンス監督作品は独特の会話劇が一つの持ち味ですが、時に会話の内容や状況をつかみにくく感じることもあります。その点本作は最初から最後まで痴話げんかと浮気の隠ぺい工作を描いており、非常に描写意図がわかりやすい内容です。それでいてつい引き込まれてしまうサンス監督流の会話手法はすでに完成の域に達しています。
このようにコメディーとして楽しみつつ、特徴的な作劇を堪能できるという点で本作は特に、ホン・サンス監督作品に触れたことのない人に入門編としておすすめしたい作品です。
同監督作品の常連となっていくヘヒョやキム・ミニらも顔をそろえているため、後続作品との描写の違いを比較しても面白いかも!
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