「あの日過ごした芳しい華々を私達は忘れない」芳華 Youth 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
あの日過ごした芳しい華々を私達は忘れない
今年公開のアジア圏の作品の中で特に気になってた一本。
本国中国では大ヒット、賞も受賞。話も良くて、期待通りの良作秀作。
1970年代の中国。時代背景や歴史が絡むと、幾ら隣国の少し昔の話とは言え日本人には馴染み薄いかもしれないが(中国は長らく扉を閉ざしてもいた)、これは誰の心にも染み入る青春感動作。
17歳の少女シャオピンがとある歌劇団に入団。
歌や踊りで兵士たちを慰労する軍歌劇団、文工団。
冒頭、陽光差し込む稽古場で、軽装で汗を輝かせながら稽古に励む団員たちの姿は、青春とノスタルジーを掻き立てる。
国と時代を超えて、スッと作品世界へ。
団は男子寮/女子寮の寮住まい。
女子寮は、ご想像通りの世界。先輩からのいびり、軍服事件に豊胸パッド事件…。
若い男女が一緒に過ごせば、そりゃあ色々ある。影でいちゃついたり、一人の男性を巡っての三角関係…。
シャオピンも模範生のフォンに密かな想いを。
なかなか周囲に馴染めず、のけ者笑い者のシャオピン。
辛い事もあるけれど、新しい居場所新しい仲間に囲まれ、シャワーも自由に浴びれて、思えば最も幸せな時だったかもしれない…。
古今東西、輝かしい青春は束の間。
戦争、毛沢東の死…時代が目に見えて大きく変わっていく。
若者たちもその流れに逆らえず、呑み込まれていく…。
公演は中止。
交際も風紀を乱す理由により許されない。
ある日、フォンが女子団員と揉め事を起こし、処分として戦争の最前線に送られてしまう。
シャオピンもまた野戦病院へ…。
中盤、フォンが赴いた戦地。序盤のノスタルジックな青春劇とは一転して、緊迫感溢れる戦争映画に。
敵襲。6分ワンカットの戦場シーンは圧巻の迫力で、序盤の作風とは本当に同じ映画?…と思うくらいリアルで生々しい。
シャオピンも野戦病院で負傷兵の看護に忙しい。彼女が看護する負傷兵の中に、識別も出来ないくらい全身大火傷を負った16歳の兵が。
余りにも悲惨で酷い。これが、戦争なのだ。
シャオピンにとってもフォンにとっても、文工団で過ごした日々は夢だったのか…?
やはり自分は男なので、女優さんたちばかりに目が行く。
シャオピン役のミャオ・ミャオ。おさげヘアのピュアなヒロイン像は、『初恋のきた道』のチャン・ツィイーの再来レベル! 不慣れな敬礼姿にも萌え~。
語り部のスイツにディンディン、陰湿な寮長も皆、魅力的な美人さん!
毛沢東の時代にテレサ・テンの歌、何かに明け暮れ過ごした青春の日々…監督フォン・シャオガンにとってはドストレートの時代なのだろう。
下手すりゃ個人や当時を生きた人にしか分からないが、作りや見せ方の巧さで、国も時代も違う今の我々にも充分伝わる物語になっている。
ちょいと感傷的なメロドラマ風ではあるが、それもまた良し。
監督は『唐山大地震』で史実を基にした感動作を手掛け、『戦場のレクイエム』では戦争映画も手掛け、本作はまさにキャリアベスト級、集大成と言ってもいい。
若者たちの青春群像劇スタイルだが、シャオピンとフォンの二人の愛の物語、特にシャオピン目線で見ると波乱万丈。
実は不幸な生い立ちのシャオピン。
やっと文工団で新しい生活をスタートさせたかと思いきや、戦争の渦中へ。
可憐な少女が直面した運命の数々は、残酷過ぎた。
そして彼女の心は、壊れた…。
やっと戦争が終わった。
が、シャオピンは精神を病んでしまった。
自分が文工団に居た事も覚えていない。
活動を再開した文工団。公演を披露。
シャオピンも鑑賞。すると…。
月夜の下で、舞い踊るシャオピン。記憶は忘れても、身体や心の底では忘れてはいなかったのだ。
序盤から中盤まで、文工団の歌劇は主に練習風景のみ。
が、月夜の下で舞い踊るシャオピンと文工団の公演が交錯し、このシーンの為にあったと言えよう。
そう、戦争は終わったのだ。
という事は、兵士たちを慰労する文工団の役目も終わったという事。
解散。
幸せだった事、辛かった事含め、
ここが、家だった。
皆が、家族だった。
片腕を失い帰還したフォンが閉鎖された文工団を訪れるシーンは、言葉で表せない物寂しさを滲ませる。
時が流れ…。
団員たちのその後それぞれ。作家として成功した者も居れば、満ち足りぬ生活を送る者も。
確かに世の中、平和にはなった。
が、各々、本当に幸せなのか…?
団員たちは運命で結ばれていると言えよう。再会を果たす。
シャオピンとフォンも…。
やっと結ばれた平穏な日々。
と同時に、二度と戻らないあの日々へのほろ苦さも…。
激動の時代に翻弄されながらも、大切な存在の“家族”たち、かけがえのない青春の日々…。
あの日過ごした芳しい華々を私達は忘れない。