「飛ぶには荷物が多過ぎる」ダンボ 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
飛ぶには荷物が多過ぎる
あのディズニーアニメの名作を実写映画化!と
書いてはみたものの、自分は原作アニメ版未見。
「たしか耳パタパタさせて飛ぶ子ゾウの話?」
程度の知識しかない観客としてのレビュー。
...
しがないサーカス団で生まれた子ゾウのダンボ。
生まれつき並外れて大きな耳を持つ彼は周りから
“怪物”呼ばわりされるが、彼にはその大きな耳で
空を飛べるという大きな才能が備わっていた……。
というあらすじは今さら書くまでもないか。
この映画で語られるのは――
・大きな耳を笑われ、母からも離れ離れにされ怯える
ダンボが、友達との出会いで隠れた才能に目覚め、
母を救う為にその力と勇気をふり絞る物語。
・あるいは、家業に縛られず自分の道を志したい少女
が、"母を失う悲しみ"をダンボと共有する内、疎遠
だった父と理解し合い、悲しみを乗り越えて前進する物語。
・もしくは、戦争で腕を失い、妻も亡くし、子ども達
との接し方も分からず悩む父が、頑なな生き方や
考え方を捨てて子ども達の為に再起する物語。
・くわえて、イマイチ冴えないサーカス団の人々が
その個性を駆使して助け合う物語だったりするし、
・はたまた、「不可能を可能に」という甘い理想を
語りながら、夢よりも利益を優先するあこぎな
経営者が罰を受けるまでの物語だったりもする。
……ひとつのレビューで一体何回"物語"という単語を
使う気なのかという所だが、実際これらすべてが
100分という決して長くはない上映時間で語られる。
個性や背景の面白そうなキャラクターはわんさか。
ダイナミックな見せ場も用意してある。なので、
エンタメ性十分で感動的な映画となりそうな
要素はひととおり取り揃えてあると思う。
...
なのに。
なんでこんなに感動が薄いのか?と首を傾げる出来。
主軸であるはずのダンボの成長ドラマ以外にも色々
キャラクターやドラマを盛り込んだ結果、どれも
深堀りできずに終わったという印象が非常に強い。
単純に盛り込みすぎだと感じるし、なにより主人公
であるはずのダンボの存在感が薄まり、彼を中心に
話が回っている感じがあまりしなかったのが不満点。
よちよち歩きでパオパオ鳴くダンボはフォトリアル
なのに可愛らしいし、ちょっぴりイタズラ好きで
愛嬌もある。最後、母親に促されるように独りで
友達を助けに向かう場面も良かったと思う。
だけど、周囲の人間のキャラクターたちもヘビーな
事情を抱え、そして言葉でその心情を吐露するのに
対し、彼には観客に直接感情をぶつける"声"が無い。
そりゃゾウなんだから当たり前だが、彼の感情や
成長を伝えるにはどうしたって不利になる訳で、
結果"存在感が薄い"と感じたのかなと考えている。
細かな違和感や不満点も多い。
フツーに愛らしいダンボを人間があれだけ"化け物"
呼ばわりする流れがまずピンと来ない。オリジナル版
は大人のゾウたちが”化け物”と呼ぶ流れらしいですね。
序盤でダンボを虐め、姉弟の父にも何かと突っかかって
いた男。自分の食いぶちでもあるサーカスの興業を、
普通あんな風に潰そうとするかしら?
エヴァ・グリーン演じるコレット。高飛車に見えて
繊細な彼女は素敵だが、冷酷なヴァンデバーに
拾われた背景が曖昧で、もうひとつ物足りない。
それと終盤のミリー。いくらダンボを勇気づけるため
でも、お母さんの形見を投げ捨てることは無かったんじゃ……。
...
団員たちが一致団結して母ゾウを救出する場面も、
メディチ団長や怪力秘書ロンゴを除いてほぼ
存在感の無かった人々がイマイチ爆発力の無い
アクションを披露するだけで盛り上がらない。
実はここは個人的に結構大きな不満点でもある。
きっと、サーカス団で奇妙な芸を披露する彼らは、
ダンボと同じように世間から奇異の目で見られて
生きてきたはぐれもので、だからこそダンボを
救いたいと親身になれたんだと思う。
だが、団員たちがダンボを助けようと必死になる背景
が十分に語られていないから、せっかくの彼らの
活躍にも、直前に皆でダンボを心配する場面にも、
あんまり感情が動かない。
科学に憧れる少女、腕を失った男、そして彼ら。
ハンディキャップや異質な才能を持つゆえに世間から
のけ者にされてきた人々が、ハンディキャップを才能
に変えたダンボの登場をきっかけに結ばれていく。
それこそがこの映画の主題だったのではないかと
思うし、実にティム・バートン的と思えるのだが、
そこが薄い。残念である。
...
うーむ、過去のティム・バートン監督作って、
彼の奇妙でエキセントリックなイマジネーションが
キャラクターにも世界観にも物語にもまとめて炸裂
していて、そこから世の”異質”な人々への愛情が
滲み出てくる映画という印象なのだが、今作のような、
どちらかと言えば大作に近い作品を頻繁に手掛ける
ようになってから、彼のイマジネーションがかなり
薄く感じられる作品が増えている気がして寂しい。
今作でも、未来館のヘンな人形とか渦巻き模様とか、
彼らしい奇天烈さを感じるビジュアルは散見される
のだけど……それらもせいぜい「料理を引き立てる
スパイス」くらいの分量に抑えられちゃってる。
イマジネーション自体が映画を引っ張っている
という印象ではなく、ステレオタイプな物語に
ちょっとだけ彼らしさを利かせた程度なんである。
次回作では是非また小/中規模で好き勝手に映画を
撮ってほしいもんです。
以上、イマイチの2.5判定で。
<2019.03.29鑑賞>
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余談:
マイケル・キートン&ダニー・デヴィート!
バートン版バットマンvsペンギンが今再び!
まあ今回はキートンが悪役だし最後は電流バリバリで
クリストファー・ウォーケン市長みたいだったけど。