「誰の心の中にもある100エーカーの森と、友達」プーと大人になった僕 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
誰の心の中にもある100エーカーの森と、友達
『くまのプーさん』が初めて実写映画に!
最初聞いた時、驚いたもんだ。
実写であの温かな雰囲気、世界観、愛さずにはいられない森の友達の魅力を表現出来るのか。
案の定、予告編が解禁された時、少々ドン引いてしまった。
プーたちはぬいぐるみ。ちゃんとぬいぐるみが動き、確かに間違ってはないんだけど…、う~ん…。
アニメのメルヘンさには程遠い。
なので、非常に気になりつつも、なかなか後一歩、足が劇場に赴かなかった。
賛否両論、ちょっと違う、ここがヘン…は仕方ない。
だって本作は、皆が知ってる『くまのプーさん』の数々のエピソードを実写化したのではない。
オリジナルの後日談。
大人になったクリストファー・ロビンの物語。
最初はショックで悲しい話。
クリストファー・ロビンとプーたちの別れ。
クリストファー・ロビンも子供時代にサヨナラを言う時が。
クリストファー・ロビンだっていつまでも子供で居られる訳じゃない。成長していく。それは当然の事なのだ。
が、寄宿学校に入り、父を亡くし、家族を支える事になり、辛い現実を目の当たりにする。
幸せな出来事も。妻との出会い。娘の誕生。
しかし、現実は辛い事の方が多い。
戦争へ。帰還後、就職する。
必死に働く。幸せの為に。責任あるポストにも就く。
いつの間にか、クリストファー・ロビンもありがちな大人になってしまっていた。
働き過ぎて、働き過ぎて、幸せを見失っていた。
家族を愛してはいるが、仕事を優先してしまい、ろくに相手をしてやれない。娘の意思より、高等教育を受けさせる。
笑顔も失い、あのクリストファー・ロビンが、全く面白味の無い大人に…。
そして、すっかり忘れてしまっていた。決して忘れないと誓った、あの森と友達の事を…。
そんなある日、クリストファー・ロビンの前に突然、あの森からこの世界へ、プーがやって来て…!
どれくらいの再会になるだろう。
楽しかった子供時代の思い出が瞬く間に思い出され…はしなかった。
変わらぬプーと、変わってしまったクリストファー・ロビン。
長い歳月、失ってしまったものは大きかった。
相変わらずのマイペースでおバカさんなプーに、イライラが募る。つい、辛辣な言葉も。
かつての親友を前にしても、仕事、仕事、仕事…。
「僕と再会出来て嬉しい?」と問われても、すぐに返答出来ず…。
嗚呼、こんな再会を見たくなかった…。
クリストファー・ロビンはプーを送り返す。再び、あの森へ。ところが…
100エーカーの森はこんな森だったか…?
霧が立ち込め、どんより薄暗い。
いつも迎えてくれた森の友達の姿も無い。
おそらく今の森の雰囲気は、楽しさを忘れた大人のクリストファー・ロビンの心情を表しているのだろう。子供の頃は、こんなんじゃなかった。
プーに頼まれ、森の友達探しを手伝う。
ピグレット、ラビット、ティガー、イーヨー、カンガ&ルー、オウル…皆と再会。
でも皆、大人になったクリストファー・ロビンを“ズオウ”と思っている。
でもこれは、あながち間違ってはいない。
彼らにとって、楽しさを忘れ、己の事しか考えない存在は、怖い怖い怪物なのだ。
皆を守る為、クリストファー・ロビンは“ズオウ”を追い払う。
まるで子供の頃のように。無邪気に。
少しずつ、子供の頃の楽しさを取り戻す。
やはり、クリストファー・ロビンはクリストファー・ロビンだった。
まだ、この森には自分の居場所がある。
まだ、森の友達は自分の事を迎えてくれる。
本当の“再会”に心が温かく満たされる。
森に会社の大事な書類を忘れてしまったクリストファー・ロビン。
これが無いと、クリストファー・ロビンは“ヒイタチ”に食べられてしまう…!
それを届ける為、後半はプーたちがまたまたこちらの世界へ。
そこで、クリストファー・ロビンの娘と出会って…。
プーたちの“ロン・ドン”での“トン・ケン”。
とんちんかんな言動のプーだが、時々その台詞が心に響く。
数十年振りの再会でも、「君は変わらない」。
人生の迷子と言うクリストファー・ロビンに対し、「僕が見つけた」。
仕事に忙殺されるクリストファー・ロビンに、「それって、風船より大切なもの?」。
でもやはり一番は、“何もしない”をする。
一見何言ってんだか分からないが、よくよく考えてみれば、深い台詞。
世の中、皆、何かをするのに必死。
ついつい、大切なものを忘れがちに。
時々でもいいから、ほんのひと時でもいいから、立ち止まって、何もしないをすれば、最高の何かに繋がり、大切なものを再発見出来る。
この台詞を最初に言ったのはプーじゃなく、クリストファー・ロビン。
大人になったクリストファー・ロビンは後にこの台詞を否定する台詞を言う事になるのが皮肉。
本作は本当に、クリストファー・ロビンが自分自身や今の自分の人生を見つめ直し、改めて大切なものに気付く物語なのだ。
最初は違和感あった実写プーたちだが、次第に違和感無くなってくる。
本当にぬいぐるみのプーたちが動くと、こんな感じなんだろうね。
ユアン・マクレガーも好演。
吹替で鑑賞。
プーたちはお馴染みの声。
でもユアンの声はあの人気俳優で、どうしても顔がちらつく。
話はディズニー印のハートフル・ファンタジー・ストーリーなので、予定調和と言ったら予定調和。
最後、クリストファー・ロビンは家族との関係を取り戻し、仕事も上手く行き、プーたちともずっと仲良し…と、何処までも都合いい。
前半の苦さと後半の温かさの差が激しく、ハッピーエンドも悪くないけど、出来れば後半も大人になってしまう事は仕方ないほろ苦さも少しあって良かったと思う。
それから、プーと100エーカーの森は、言ってしまえば、クリストファー・ロビンの子供の頃の空想上の世界と友達。それは誰にだってある筈。だから本音をぶちまけてしまうと、プーたちが現実世界に現れて欲しくなかった。夢が、大切な思い出が、急に現実になったようで…。娘が、父の子供の頃に触れ、新しく友達になるのは心温まっていいが。
最後、ズル賢い“ヒイタチ”をぎゃふんと言わせるのは胸がすく。
トータル的に、当初のイメージより、思ってた以上に良かった。
子供の頃、クリストファー・ロビンはプーたちと仲良く楽しく遊び、困った事があれば助けた。
そして大人になった今…、今度はプーたちがクリストファー・ロビンを助ける。
アニメだろうと実写だろうと、プーはプー。皆は皆。クリストファー・ロビンはクリストファー・ロビン。変わらない。
大人になり、大切なものを忘れ、失ってしまうのは仕方ないのない事。
でも、時々何もしないで、思い出してみて。
アナタの周りには大切な存在が居て、
あの森で、ずっといつまでも迎えてくれる。