劇場公開日 2018年9月14日

  • 予告編を見る

「観る者に問いを投げかける傑作」プーと大人になった僕 しろくまさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0観る者に問いを投げかける傑作

2018年9月19日
iPhoneアプリから投稿

「プーと大人になった僕」〜いまを生きる私たちに問いを投げかける傑作

初めに断言する。
これは、大人のための映画である。
とりわけ、あなたがいま何かの仕事をしているなら、観ることを断固オススメする。

中年になった、かつて子供だった主人公。
“あの頃”のままのプーと仲間たち。
そう、彼らのあいだには“段差”がある。
その“段差”を埋めるのは会話だ。
その会話が泣ける。
物語の起承転結、つまり、クライマックスで泣けるのではない。
何度かある場面、“段差”を埋めていくプーと主人公との会話に泣けるのだ。
こんな映画、滅多にない。

大人の世界、しかも大都会ロンドン、その視点から見るとプーの話は、まったくもってズレている。
ズレているがゆえ、その言葉は本質的で哲学的な響きさえ帯びてくる。

舞台は第二次世界大戦後、間もないロンドンだ。
日本だけでなく、世界中が復興に向け、モーレツに働いていた時代。
男女の性役割は今よりも明確で、男は家庭も顧みず働いた、そういう時代だ。
だから、主人公の行動(例えば休日の家族との約束よりも仕事を優先する)は、そう特別ではなかったろう。

「それは風船より大事なの?」
プーは仕事に向かう主人公に問う。

劇中、こんなプーの言葉に何度も心を揺さぶられる。
なぜか?
本作の舞台は50年近くも前ではあるが、極めて現代的なテーマの映画だからだろう。
「働き方改革」が叫ばれ、もはや“右肩上がりの時代”の終わりに立ついま、「君たちはどう生きるか?」
その問いを、いまの時代に生きる私たちに突きつける映画なのである。

原作(ディズニーアニメではなく本のほう)の挿絵の風景を見事に再現したプーたちの住む「100エーカーの森」は、デジタルではなくフィルムで撮影したとのこと。そこにある空気や風、水まで感じられる映像が素晴らしい。
ぜひ、映画館のスクリーンで。
原作のエピソードをモチーフにたくさん使っていて、知っているとニヤリとするシーンも多く、ディズニーアニメ版ではなく、むしろ原作ファンにおススメ。

なお、(迷った上)吹替版を観たんだけど、主人公を堺雅人が演じていて、これがほんとうに素晴らしかった。ユアン・マクレガーを食ってしまっていると思うほど、見事に堺雅人の役になっていた。

しろくま