「観る者に問いを投げかける傑作」プーと大人になった僕 しろくまさんの映画レビュー(感想・評価)
観る者に問いを投げかける傑作
「プーと大人になった僕」〜いまを生きる私たちに問いを投げかける傑作
初めに断言する。
これは、大人のための映画である。
とりわけ、あなたがいま何かの仕事をしているなら、観ることを断固オススメする。
中年になった、かつて子供だった主人公。
“あの頃”のままのプーと仲間たち。
そう、彼らのあいだには“段差”がある。
その“段差”を埋めるのは会話だ。
その会話が泣ける。
物語の起承転結、つまり、クライマックスで泣けるのではない。
何度かある場面、“段差”を埋めていくプーと主人公との会話に泣けるのだ。
こんな映画、滅多にない。
大人の世界、しかも大都会ロンドン、その視点から見るとプーの話は、まったくもってズレている。
ズレているがゆえ、その言葉は本質的で哲学的な響きさえ帯びてくる。
舞台は第二次世界大戦後、間もないロンドンだ。
日本だけでなく、世界中が復興に向け、モーレツに働いていた時代。
男女の性役割は今よりも明確で、男は家庭も顧みず働いた、そういう時代だ。
だから、主人公の行動(例えば休日の家族との約束よりも仕事を優先する)は、そう特別ではなかったろう。
「それは風船より大事なの?」
プーは仕事に向かう主人公に問う。
劇中、こんなプーの言葉に何度も心を揺さぶられる。
なぜか?
本作の舞台は50年近くも前ではあるが、極めて現代的なテーマの映画だからだろう。
「働き方改革」が叫ばれ、もはや“右肩上がりの時代”の終わりに立ついま、「君たちはどう生きるか?」
その問いを、いまの時代に生きる私たちに突きつける映画なのである。
原作(ディズニーアニメではなく本のほう)の挿絵の風景を見事に再現したプーたちの住む「100エーカーの森」は、デジタルではなくフィルムで撮影したとのこと。そこにある空気や風、水まで感じられる映像が素晴らしい。
ぜひ、映画館のスクリーンで。
原作のエピソードをモチーフにたくさん使っていて、知っているとニヤリとするシーンも多く、ディズニーアニメ版ではなく、むしろ原作ファンにおススメ。
なお、(迷った上)吹替版を観たんだけど、主人公を堺雅人が演じていて、これがほんとうに素晴らしかった。ユアン・マクレガーを食ってしまっていると思うほど、見事に堺雅人の役になっていた。