「まさにディズニーランドの命題」プーと大人になった僕 Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
まさにディズニーランドの命題
まさかの、"クリストファー・ロビンの出戻り"である。
原作「プー横丁にたった家(The House at Pooh Corner)」の最終章で、クリストファー・ロビンは、プーやピグレットたちと別れを告げ、確かに"またこの場所で再会すること"を誓ったのだけれど、それは"子ども時代との別れ"の象徴であり、二度と戻らない約束と捉えていたはず。
そんな原作でいちばん悲しい、別れのエピソードを忠実に再現するシーンから、この映画は始まるのだ!
本当は"つづき"なんていらない。原作は、子供だけが持つ特権、"do Nothing(別に何もしないこと)"の大切さを訴え、それだけで完全なるファンタジーとして成立しているからだ。
クリストファー・ロビンはプーさんに、"自分はもう[なにもしない]をすることができなくなってしまった"から別れたし、100エーカーの森で暮らすプーさんは"毎日、[なにもしない]をするので、忙しい。"のだ。わざわざ起こす必要はない。
しかしディズニーが、これほどまでに"くまのプーさん"に真正面から向き合ってくれるとは思わなかった。
ディズニーは本来の主人公クリストファー・ロビンよりも、かわいいキャラクターとしての"くまのプーさん"第一主義であったはずだから。
ミッキーマウスに並ぶ人気キャラクターである、"くまのプーさん"は、ディズニーのものではなく、本来の商品化権を持つ"スレシンジャー社"や原作者遺族ミルン家との訴訟の歴史だったりもする。
アメリカナイズされたこともあった、"くまのプーさん"が、ちゃんと英国を舞台に、ちゃんと"空想のぬいぐるみ"として描かれる。しかもスコットランド出身のユアン・マクレガーが、クリストファーを演じる。
ディズニーが監督にマーク・フォースターを選んだのは、当然、「ピーター・パン」の原作者ジェームス・マシュー・バリーを描いた「ネバーランド」(2004年/Finding Neverland)を期待されているように思う。
それに応えて、偉大なる原作のつづきを作るなんて酷である。イギリスには、おんなじクマのキャラクター、"くまのパディントン"もいて、こちらの方がシリーズ映画としては、面白いし前途洋々である。
最近、やはり"田舎町とロンドンの対比"="田舎暮らしとビジネスマン"を持ち出している作品で、同じく英国出身のビアトリクス・ポターによる「ピーターラビット」の実写版(2018)もあった。
やはり"原作を超えろ"というのは、ムチャである。
実は原作をしっかり踏まえているのは、"そのまんまオトナになっちゃえ!"というブラックジョークに仕立ててしまった、R指定コメディ「テッド」(2012/TED)であり、"続編"として秀逸なのはこちらのほうかもしれない。
でも、ディズニーはがんばった! "オトナになっても夢の世界を忘れないで!"は、まさにディズニーランドの命題である。そういう意味でこうなるしかないのである。
(2018/9/14/TOHOシネマズ日本橋/シネスコ/字幕:佐藤恵子)