「監督のセンスが光る」トラさん 僕が猫になったワケ nさんの映画レビュー(感想・評価)
監督のセンスが光る
「猫スーツ」を筆頭に受け手の想像力を信じる演出で、決して多くは語らない。笑いも涙も過度に押しつけることなく、巧みな構成と真摯な芝居だけがそこにある。「見た目は猫、中身は人間」というポップなファンタジーが引き起こすおかしみと、死という動かしがたい現実がもたらす後悔や哀惜が、無理なく同居し、互いを鮮やかに引き立てている。91分という短い尺も手伝って、飽きずに何度でも見たくなる佳作。
全力で「その人物としてそこに存在する」姿に、俳優・北山宏光の開花を見た。多部未華子と平澤宏々路の確かな演技力によって、残された母娘のやりとりが胸を打つ。ビジュアルと声がキュートな飯豊まりえの白猫・ホワイテストは、不思議な存在感で主人公を導きながら、彼女自身のドラマでも魅せてくれる(あくまで明示はされず、こちらの解釈に委ねる潔さが心憎い)。要潤やバカリズムのいわば「贅沢な無駄遣い」も軽妙で楽しい。
「猫」と「家族」の映画のようでいて、実は「漫画家」の映画でもあり、アナログ漫画の作画過程が大きな見せ場のひとつとなっている。ダメでクズでどうしようもない主人公の、0から1を生み出すクリエイターとして、夫として父としてのかっこよさがギュッと詰まった貴重なシーン。そして、家族の過去と現在と未来を繋ぐ希望のシーンだ。
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