劇場公開日 2019年2月15日

「着ぐるみの姿を借りた幽霊」トラさん 僕が猫になったワケ あさひさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0着ぐるみの姿を借りた幽霊

2019年2月18日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

笑える

幸せ

死んでしまったけど、大好きな家族の元にいられる、ただし猫の姿として。
この「猫の姿」は猫スーツと呼ばれるいってしまえばただの「着ぐるみ」で表現されている。初めてこの猫姿を見たときは、笑って泣けるコメディなんだろうなと思ったけど、実際に観てみたら、このCGが発達した時代に「着ぐるみ」というアナログな方法で猫姿を表現することによって、途方もないやるせなさと切なさが際立つのだと思い知らされた。
普通の姿をした人間に混じる「猫の着ぐるみの人間」が同じ画面に映っているという違和感は、そっくりそのまま主人公が「中身は人間なのに猫として生きていく違和感」なんだ。

猫だから、どんなに傍にいても声をかけてやれない。思いを伝えてやれない、ただ餌をもらい可愛がられるだけ。日常を見守ることはできてもただそれだけ、それ以上のことはなにもできない。父親として娘を守ることも、夫として妻を支えることもできない。
この「できない」のが歯がゆく切ない。

同じ空間に娘と妻と一緒にいるけど、見えない壁がある。猫からは全て見えているのに、娘と妻からは何も見えない。
ああ、猫といってもこれはただの幽霊だ。しがない、死んだ後にやり残したことがあるただの幽霊じゃないか。そう思ってしまったら悲しくなってしまった。

でもこの映画は幽霊じゃない、猫なんだ。猫だからこそ見えるもの、話せるもの、救えるものがある。
自他ともに認める「クズ」として生きてきた主人公が、その蛮行を帳消しにできるほどの善行やましてや世界を変えるなどといったことをできるわけでもない。だけど、この主人公が妻と娘に愛されてきたことで「やり残してきたこと」を時間をめい一杯使ってやり遂げる。

初めは原作未読で、2回目は原作読後に観たけれど、これをこうまとめたのか…と、捨てる勇気を称えたくなった。

あさひ