「つらい涙にならないよみがえり映画」トラさん 僕が猫になったワケ saKiさんの映画レビュー(感想・評価)
つらい涙にならないよみがえり映画
ずっと待ち望んでいたので、公開日に観てきました。
主演の北山宏光さんのファンということがきっかけで、この映画を知ったのですが、ファンという目線を抜きにしても、本当に温かくて素晴らしい映画に出会えたと感じました。
よみがえり映画は、いつも別れがつらくて悲しくて泣いてしまうのですが、この映画は温かくて「ありがとう」という気持ちでいっぱいの涙を流せる、素敵な家族のお話でした。
北山さんの、クサいようで自然で、熱くて愛のある演技と、猫スーツ姿に途中から全く違和感を感じさせない、猫の才能が、この温かい映画のポイントでもあると思います。
印象的なシーンは、いくつもあるのですが、
母の奈津子と実優がコタツで、父・寿々男のどこが好きなのかと話している、なんとも可愛らしいシーン、
娘の実優が漫画を描いていて、「赤ちゃんいらない」という台詞を書く、胸が締め付けられるようなシーン、
パパが死んでからママは一度も泣いてないと、実優が奈津子に言うシーン、
奈津子がなぜ泣かないのかがわかる、寿々男の"遺言"について回想しながら語り、ふたりで泣き崩れるシーン、
そこでいたたまれなくなるトラさんのシーン、
プロポーズ記念日で訪れる展望台での、トラさんと実優の、笑えて泣けるシーン、
実優がトラさんと一緒に家に帰ってきて、奈津子と実優が抱き合っているところで、トラさんが何も通じないことに切ない表情を浮かべて去るシーン、
ホワイテストがパパとの話について語り、消えてしまうシーン、
あの世の関所で、トラさんが裁判長に、人間の姿に戻って漫画を完成させたいと懇願するシーン、
トラさんから寿々男の姿に戻って、実優と話をし、お互いに気持ち伝え合い、寿々男が涙して実優を抱きしめるシーン、
最後の朝、奈津子と笑い合うシーン。
そして、エンドロール。
思い出してこの文章を書いているだけで、涙が溢れます。
猫の姿だったり、やり取りや台詞が笑えるものだったり、寿々男が生き返りたい!家族のところに戻りたい!と強く思わないところや、
よみがえることにより、のこされた家族が、もう離れたくない、行かないで、、、とシリアスな感じになってしまわないところなどにより、
つらく悲しい涙ではなく、温かい涙を流せる映画になっているのだろうなと思います。
また、そこが本作の魅力だと感じました。
そして、とても素敵だなと思ったのは、寿々男自身が、家族に会いたい、人間の姿で家族の前に現れたいと願わなかったことです。
見方によっては、真っ先に家族に会いに行かないなんて、死んでまでクズだな、というものもあるかと思います。でも、私は、寿々男が生前、伝えたい時に惜しみなく愛を伝えてきたからだと思っています。
世間体としては、ダメダメなクズ夫かもしれませんが、愛情深くストレートで、とても素敵な人だなと感じました。
世の中のお父さん、お母さん、小さなお子さん、反抗期の人、上手く反抗できない人、猫を飼いたい人、猫って楽そうでいいな〜猫になりたいな〜と思ってる人、今死んでも別にいいと思ってる人、毎日たのしく過ごしてる人、元気ない人、自分にはなにもないと思ってる人、守るものがある人、とにかくいろいろな方に届いて欲しい。
明日から少しだけ何かを変えようとか、態度を改めようとか、何かを始めようとか、もっとがんばろうとか、何かを伝えようとか、人それぞれだけど、前向きな何かを思えるような映画です。
上映館も増え、長く親しまれ愛される作品になると良いなと思います。