「生々しくも劇場的」生きてるだけで、愛。 KinAさんの映画レビュー(感想・評価)
生々しくも劇場的
三年間共に過ごしても一瞬しか分かり合えなかった二人のことを、たかだか109分の上映時間に切り取って観ただけで理解しようとする方がおこがましいのかも。
とはいえ色々な方向への共感度はわりと高めで、苦しくなったり不安になったりホッとしてみたり。
登場人物の感情の流れがリンクして体感できる作品だった。
拗らせとかいうレベルではない、本当に躁鬱症で人と異なる点のたくさんある寧子。
全てが上手くいかず苛立ち泣き叫びわめく姿が痛々しくて、自分にも思い当たる節があったりして、グッと苦しくなる。
日常感の強い一つ一つの仕草に目を奪われ引き込まれた。
これからの季節、電子レンジとハロゲンヒーターとドライヤー同時に付けると絶対ブレーカー落ちるよなあ。わかる。
コンビニの面接では完全に寝過ごすのにカフェのバイト初日では比較的ちゃんと起きるの好き。
安堂の存在と店主たちと話したことで、きっと自分の中での意識に差が生まれたんだろうな。(しかし遅刻はする)
全ての感情を津奈木にぶつけて具体的な答えはわからないくせに同じだけの熱量を求める完全に面倒くさい寧子と、
そんな寧子をのらりくらりとやり過ごし優しく接して一見彼女を理解しているようにも見える津奈木。
上手くいってるんだかいってないんだか絶妙な二人が一つ行きついたラストの形は、意外にあっさりしているように思えた。
特に何かが解決したわけでもなく停電の中ただ裸で踊って、それで何なんだと。でもそれで良いんだと思う。
津奈木が寧子と一緒にいる理由がやけに詩的でふんわりしてるけど、なんだかんだ好きなんだろうな。寧子もしかり。
ただなんとなく惹かれ合ってそのままなんとなくくっついていて、それが心地良ければ良い。
今後はお互い歩み寄りつつもう少しでも確かなものを感じられるようになるのかな。
ようやくスタートラインに立てたような二人の最後の眼差しがとても綺麗。
感情の見えずらい津奈木が職場で反抗してキレたり、寧子に対してきちんと言葉を紡いでくれたのが嬉しかった。「今どこ」の聞き方が好き。
それにしても寧子はいきなり働き出すのは厳しいと思うからまずはカウンセリングを受けたり人と会話したり小さなことから前に進めればいいのかなーなんてお節介ながら思ってしまう。
「私は私と別れられない」んだから、少しずつで良いんだから。
カフェの人たちは良くも悪くもわざとらしいくらい優しくて良い人で、少し鈍感。
四人で食卓を囲むシーンで、これはうまくいきそうだなと劇中の人物も観客も誰もが思った直後の気まずい空気とトイレの外から漏れ聞こえる会話の内容は少々ショッキング。
逆にビシビシ厳しいことを寧子に投げる安堂の浮いたキャラクターが好き。
一人だけあからさまにフィクションにありがちな雰囲気があって、その言動も現実味が無く何がしたいのかわからない。
完全にストーカだし正直まじで重症である。それが良いアクセントになっていたように感じた。
裸は出てくるけど性的な接触の描写が全然無かったのが印象的。
最後までキスもしない。
リアルな空気の流れる中で、どこか劇場的で生々しさを抑えた絶妙なバランスの演出が面白かった。
ライティングの美しさが象徴的。
自分がかなりネチネチした性格の女なので身に沁みる点も多かったのだけど、男性はこれを観てどう思うのかとても気になる。
人と接するときに自分と相手のテンションや熱量に差があると寂しく感じるのは誰でもあることだとは思うんだけども。