「陰陽師あべのますきは何故その場所を選んだ?」時間回廊の殺人 kossykossyさんの映画レビュー(感想・評価)
陰陽師あべのますきは何故その場所を選んだ?
韓国にも毎日新聞(日本のそれとは無関係)があるんだと知り、いきなり日本語をしゃべりだす盲目の巫女に驚かされた。1992年の殺人事件の映像から25年経ったミヒの仮釈放まであっという間。そしてストーリー展開は92年当時と25年後を交互に描いて展開する。
喉頭がんを患い、心を閉ざしたままの受刑者ミヒ。無罪を主張しようにも家の中や凶器の包丁にも自分の指紋しかついていない。生きる希望といえば、荒れ果てた自宅に戻って息子ヒョジェを探すことしかなかったのだ。
中盤までは音響効果でホラーサスペンスを前面に押し出した展開。家には何かがいる!最初はすべてミヒの妄想世界かとも思ったけど、92年のストーリーが進むにつれ、地相鑑定士や巫女までが辻褄合わせで嘘を言うはずもないと徐々にわかってくる。が、そうであれば夫殺しの犯人は誰だ?などと、時間回廊というタイトルすら忘れてしまうほど夢中になってしまった。
現代パートでは、ミヒの住む家に興味を持ったイケメンのチェ神父が色々と調べてくれる。すると、92年の事件だけではなく67年、日本に占領されていた42年にも失踪事件があった事実が判明し、25年周期に失踪事件が起こってるのだと気づく。そして、25年後のその日がまさにその日となった。逃げてくださいと言われても、息子を探すために家を出ちゃいけないと頑なに拒むミヒ。
絶妙なタイムスリップもの。25年おきのそれぞれの失踪者がまるで同窓会のように顔を合わせる気持ち悪さもあった。75年前の日本人も歳をとってないし、みんな時間の迷宮に閉じ込められているのですね。そんな中、おじいさんとなってしまった息子のヒョジェに再会するミヒ。自分よりもじいさんになってしまっても息子は息子。時の流れとしては、2092年からやってきたということになる。そして、自分の人生はもう満足したような顔をして、母親だけには刑務所暮らしをさせたくない一心で「今度は僕を助けないで」と説得するが、ミヒはやはり夫を刺し殺すのだった。つまり92年の殺人事件は25年後からやってきたミヒが殺した事実。まさか歴史は変えられないためじゃないだろうけど、自分の人生よりも息子の命を優先させた自己犠牲の愛。序盤のシークエンスと同じシーンが使われているものの、恐怖音楽からがらりと変わる美しい旋律。ここで泣け!みたいな演出が施されているのです。だけどここじゃ泣けない。ギリギリ同一時間軸に同一人物が存在しちゃいけないことを守り、頭は時空の流れを整理していたからだ。
やばい。泣けるのはチェ神父とヒョジェが対面したシーンだった。「ジュノ?」と92年時代の友人だったジュノとハンドシェイクを交わす二人。さらに、ヒョジェが好きだったジュノの妹ヨニに再会。25年も年下になっちゃったけど、ここで涙が零れ落ちてしまった。欲を言えば、この子供時代のエピソードをもう少し多めにしてほしかったなぁ。それに兄が弟を助けようとするエピソードはややこしくなるから不要かも。心臓病もそれほど生かせてない。