「不死鳥を信じる」X-MEN:ダーク・フェニックス 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
不死鳥を信じる
今のMCUよりも前に始まり、アメコミ映画ブームの先駆けとなった『X-MEN』。
『アベンジャーズ』がフィナーレを迎えた今年、奇しくも『X-MEN』もフィナーレ。
…が、あちらの大熱狂&大絶賛に遠く及ばないほど、全米では散々たる不発&酷評。
確かにシリーズ最高傑作とは言い難い。フィナーレにしては物足りなく、難点や不満点も多い。
でも、言われるほど酷くはなかったと思う。
シリーズを見てきたファンにとっては楽しめるし、『~フューチャー&パスト』『~アポカリプス』で見納めかと思ったシリーズの新作を見れるのは嬉しい。
『X-MEN』は新作が作られる度に、シリーズ最大の危機!シリーズ最大の敵!…が定番の宣伝文句だが、残念ながら今回はそのどちらでもない。
シリーズ最大の危機なら『~フューチャー&パスト』。
敵のインパクトなら『~アポカリプス』。
さらに言うなら、フィナーレなら『~フューチャー&パスト』かスピンオフの『LOGAN』の方が相応しい。
それらではないが、シリーズ最大の悲劇ではある。
と言うのも、今回対するのは…
大統領命令で宇宙の救出ミッションに向かったX-MEN。
任務は成功したが…、その際、ジーンが謎の宇宙エネルギーを浴びてしまう。
彼女の中に眠る恐るべきパワー“ダーク・フェニックス”が目覚め…。
今回対するのは何と、仲間のジーン・グレイ!
X-MEN内でプロフェッサーXに次ぐサイキック・パワーを持つ。
しかし実際は、秘められたサイキック・パワーはプロフェッサー以上で、ウルヴァリンやマグニートーらを抑え、一番の最強ミュータント。
旧シリーズの3作目『~ファイナル・ディシジョン』でも別人格が目覚めウルヴァリンらと闘い、前作『~アポカリプス』でも片鱗を見せていた。
と言っても、単にジーンが悪となってX-MENと闘う訳ではない。
制御出来ず、自身のパワーに恐れるジーン。
彼女を救おうとするプロフェッサーやX-MEN。
やむを得ず抗戦となるが、その時、悲劇が…。ある重要なメンバーが…。
これにより、X-MEN内にも亀裂が生じる。
闘うのか、救うのか。
彼女を憎み、殺そうとするメンバーも。
それでもジーンを信じ続けるプロフェッサー。
が、プロフェッサーはジーンにある真実を隠し、嘘をついていた。
忌まわしい過去、犯してしまった罪、再び人間たちからミュータントは脅威の存在とされ、還るべき家も家族も居ない…。
悲しみと苦しみに陥るジーンに、謎の女が近付く…。
『X-MEN』はこれまでウルヴァリンかプロフェッサーやマグニートーがメインキャラとして話の中心に据えられてきたが、ジーン中心の話は新鮮。それくらい、複雑な内面を秘めたキャラ。
プロフェッサーがジーンにつき続けた嘘。
真実を隠し続けたのはプロフェッサーの罪ではあるが、全く理解出来ない事は無い。寧ろ、分かる気がする。
もし、ジーンが幼い頃に真実を知ってしまっていたら…? その時点でジーンの心は壊れてしまっていただろう。
ついた嘘は、彼女を守る為。
ジーンを引き取ったプロフェッサーの彼女への親のような愛情に嘘偽りは無い。
確かにその嘘が始まりとなり、その後の悲劇に繋がったが、それに対し自分自身のままで居られるか脅威の存在になるかは、彼女自身の問題。
我々は、信じるだけ。
ジーン中心の今作ではあるが、ちゃんと各々の見せ場も設けられている。
プロフェッサーと、X-MENメンバー。序盤の救出ミッションや要所要所の闘いで能力を発揮。
人里離れた地で静かに暮らしていたマグニートーも戦線復帰する。ある愛していた者への復讐の為に…。
幾度も対立と再会を繰り返すプロフェッサーとマグニートー。お約束のチェスは…?
ミスティークとビーストのヤキモキする恋の行方。
そして、そのミスティークが…。
前作『~アポカリプス』より圧倒的に出番が増えたジーン役のソフィー・ターナーをたっぷり堪能。初代ジーン役のファムケ・ヤンセンとはまた違った魅力。
今回、敵も女性。X-MENを率いる実戦リーダーはミスティーク。
“X-MEN”ではなく、“X-WOMEN”と言っても過言ではない。(実際、劇中そんな台詞もあった)
シリーズ初参加となるハンス・ジマーによる音楽は非常にエモーショナルで作品を盛り上げる。…あれ? スーパーヒーロー映画の音楽は卒業するって言ってなかったっけ??
要所要所のアクション、VFX。特に、終盤の列車内での各々の能力を駆使したバトルはエキサイティング。
だけどやはり、スケールや迫力はシリーズの他作品と比べて少々ダウン。
その分ドラマ部分に比重が置かれているが…、一見深く掘り下げられているように見えて、所々雑。キャラの心情が唐突であったり、コロコロ変わったり。
一応今回も登場する敵。ジェシカ・チャスティンがミステリアスに存在感を放つが、どうも今回の敵はインパクト的にも脅威的にもパッとしない。
これまでプロデュースや脚本でシリーズに携わってきたサイモン・キンバーグが本作で監督デビュー。
シリーズを知り尽くしている筈だったが…、全米での不振は自分の責任と謝罪。
が、かえってそこに彼のX-MEN愛を感じた。
良かった点イマイチな点も含め、フィナーレ。
大団円的な部分もあり、メンバーも数名死に、シリーズ続行は難しいだろう。
今後スピンオフ的な作品は作られていくようだが、しかし、ひょっとしたらいずれ、再び不死鳥のように…。
何だかんだ言ってやはり、『X-MEN』が好きなのだ。