「壮大なホームビデオ。家でやれ家で。」クワイエット・プレイス たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
壮大なホームビデオ。家でやれ家で。
音に反応し襲い掛かるモンスターにより人類滅亡の危機を迎えた世界で、懸命に生きる一家に降り掛かる恐怖を描くホラー映画。
主人公イヴリンを演じるのは『プラダを着た悪魔』『オール・ユー・ニード・イズ・キル』のエミリー・ブラント。
イヴリンの息子マーカスを演じるのは『サバービコン』『ワンダー』のノア・ジュプ。
製作は『アルマゲドン』『トランスフォーマー』シリーズの、大作映画を数多く手がけるヒットメイカーのマイケル・ベイ。
第24回 放送映画批評家協会賞において、最優秀SF/ホラー映画賞を受賞している。
監督・脚本・主演男優のジョン・クラシンスキーはエミリー・ブラントの夫。
旦那が作った映画に妻が主演で出演。しかも実の夫婦が映画でも夫婦役って…。
自主制作映画かっ!とツッコミたくなる。まぁ、別にいいんだけどさ。
設定は面白い。
些細な音にでも反応するモンスターから逃げるため、手話で会話したり、裸足で移動したりするという設定はなかなかフレッシュ。
映画全体を通して非常に静かな作品であり、セリフもほとんどない。
そのため、ちょっとした物音にでもビクッと驚いてしまうような緊張感が映画を支配している。
映画中の展開と観客の心境がリンクする巧妙な仕掛けだと思う。
しかし、この設定が足を引っ張ることになる。
静かすぎて単純にエンターテインメントとしてつまらない。90分という短い上映時間の間で何度時計を見たことか。
ただでさえ静かな構成なのに、家族というミニマムなコミュニティの物語に終始しているため、お話の求心力が全くない。
いや、その家族の描き方に特別な面白さがあればそれでも良いのだけれど、描かれるのは取ってつけたようなベタな確執ばかりで全くノれなかった。
この映画におけるメインのストーリーラインはイヴリンが妊娠しており、予定日より早く生まれそうになったためにトラブルが起こるというもの。
新たなる生命と死を司る怪物。生命を象徴する産声と静寂を破ることにより訪れる死。
この辺りの対立構造は興味深いし面白いと思っており、どうやって対処していくのかな、と思っていたらなんかその辺が雑だった。
出産こそがこの物語の肝だったと思うのだが…。
怪物のデザインはエイリアンの出来損ないみたいな感じでカッコよくも怖くもない。
音に敏感すぎるが故に音が弱点とかいう使い古されたネタを現代で使うのか…。
映画の序盤は結構びっくりするところもあったけど、だんだん慣れてきて終盤はほとんど無。
映画中一番びっくりしたシーンはモンスターの襲撃ではなく、自殺志望者のジジイが突っ立ってたところだった気がする。
ジジイのインパクトに負ける程度のモンスターです。はい。
1番の問題は、結局モンスター退治の物語に落ち着いてしまったところ。
普通の主婦が倒せる程度のモンスターに世界は滅ぼされたのか…とか思ってしまって、壮大な茶番を見させられているような気分になった。
何やねん最後のドヤ顔は。
ほとんどセリフなしという映画なので、俳優の演技力が非常に大切になると思うが、その点はすごく良かった。やっぱりエミリー・ブラントは演技が上手い。
特に娘役のミリセント・シモンズ。彼女は良かった。本当に聴覚障害を持っているということもあり、リアリティのあるお芝居で大変素晴らしかった。
褒められる点が全くないわけではないが、退屈な映画。
赤ん坊という要素を上手く扱えきれなかった点と、結局安易なアクション映画に落とし込んでしまった点は、やっぱり問題あるよなぁ。
興行的に大ヒットし評判も良いらしいが、自分としては全く面白くなかった。
B級モンスター映画として楽しむ事もできない大金のかかったホームビデオです。
たなかなかなかさん、共感ありがとうございます。
評価は私とは違うようですが、違う評価に共感してくれたことが映画ファンとして重要だと思いました。
色んな見かた感じかたがあって当然で、お互いの見かたを尊重し合うのが、同じ趣味を持つ人どうしのコミュニティですよね。
私は子を持つ親として、映画の父親の最後の選択に心打たれました。
ラストも、ドヤ顔というより、これから続くだろう過酷な状況に立ち向かう決意のように思いました。