「感情を刻む、ラ・チャナのコンパス。」ラ・チャナ すっかんさんの映画レビュー(感想・評価)
感情を刻む、ラ・チャナのコンパス。
⚪︎作品全体
見始める前は「老い」と向き合う作品だと思った。
若い頃の力強さや精神的な情熱を振り返りつつ、ラ・チャナが直面する「老い」との向き合い方を語る、というような。
部分的にはあっていたが、ただそれだけではなかった。彼女は自身の体に流れるリズムを「コンパス」と言い換え、「私の感情はコンパスに根ざしている」と語る。自身の感情がリズムにある限り、彼女のフラメンコは揺らぐことがない。フラメンコは肉体の表現だけではなく、情熱の表現であることに納得させられた。
若き日のダンスは圧巻だった。ほぼほぼ当時の映像をそのまま映すだけだったが、それだけで充分迫力がある。むしろ余計な演出が無い分、凄みを感じた。
作中ではラ・チャナが二度フラメンコから離れたことが語られる。兄の死による喪中の期間と、夫から虐待を受けていたときだ。いずれもブランク経てフラメンコに帰ってくるわけだが、どちらの時も彼女は「すぐに踊れた」と語る。きっとそれは強がりでは無く、事実なのだろう。力強く「私の感情はコンパスに根ざしている」と語った彼女の言葉とその力強さがその証左だ。
ラストは老齢になった現在のラ・チャナが舞台に立ち、足を引きずりながら階段を下り、会場を後にする後ろ姿。確かにそこには避けられない「老い」があったが、それよりも立派に演じ切ったフラメンコへの矜持を感じさせた。
⚪︎その他
・フラメンコの道を歩む最初のエピソードが良かった。ギターのフレーズを聴いて「これなら踊れる」と、急いで靴を用意して、踊る。とても純粋な感情があったんだろうな、と感じた。練習して、どこかで発表するのでなく、踊りたいから踊った、という純粋さがあるエピソード。