「万引き家族は、本当の家族だったのです」万引き家族 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
万引き家族は、本当の家族だったのです
号泣しました
胸が張り裂けそうというのはこのことかと思いました
貧困問題だとか万引きだとか、年金の不正請求だとか、そんなことはこの家族のディテールに過ぎないことで、言わばフリルのようなものです
テーマはあくまでも家族とは何かです
鬼畜、家族ゲーム、台風クラブときて日本の家族はとうとうここまできてしまいました
本当の家族とは何か
父とは何か、母とは何か、おばあちゃんとは何か、兄妹とは何か
愛情と信頼の関係性とは何がもたらしてくれるのか
様々なテーマが提起されます
誰も知らない、そして父になるで提起されたことをさらに突き詰めたのが本作です
肉親間の愛情の崩壊もそれに関係しているのだと思います
この家族のモラルの崩壊が、その愛情の崩壊と比べて一体何ほどの事なのかと言っているのだと思います
万引き家族
肉親間の愛情が崩壊した本当の家族と比べて何ほどのことなのか
愛情が崩壊した家族の家の心の光景を可視化したならこのような姿なのだと思います
中盤になって、この家族の本当の関係性が薄々感づいてくるまで、何気なく見過ごしていた言葉や表情や素振りの意味、何気ないシーンの隠されていた本当の意味がようやくわかりかけてくると、それらは矢のように心に突き刺さってきました
もう終盤のころにはハリネズミのようになってしまいました
ゆりの元の服を燃やすシーンは、じゅりの火葬でした
虐待児は死んで、家族に愛される子供りんが生まれていました
ゆりがりんとなり家族の一員となったとき、信代は治に性交を迫ります
何故って、子供は夫婦に愛があって生まれて来るものだからです
だから何年もしてなかったのに、どうしてもしなければならなかったのです
愛の無いところに子供は生まれてきてはいけないのです
おばあちゃんは亜紀が戻れる環境になっているか定期的に確かめてくれていました
亜紀は聾唖の青年の4 番さんを抱きしめて自分も同じだと泣いていました
彼女の声は両親には聞こえないのです
だから彼女も自傷行為をしたことがあるのです
さやかの源氏名で性風俗店で働くことは両親への復讐であると同時に自傷行為だったのかも知れません
花火は音しか聞こえなくとも楽しい花火なのです
花火大会が行われていて家族で楽しむことには変わり無いのです
目に見えなくても良いのです
確かにあると感じとれているのですから
この家族に相応しい楽しみ方でした
おばあちゃんがこの家族のそれぞれを救いあげたのかも知れません
でも最初は家族に見捨てられて、長年独り暮らしだったのかも知れません
それが、また楽しい日々をもたらしてくれたと、新しい家族に恵まれましたと、声を出さずにありがとうございましたと五人の背中に言っていました
りんの歯が抜けた朝、おばあちゃんは亡くなります
歯が抜けるというのは死の暗喩であり、家族が
歯抜けになるということです
下の歯だから天に向けて放り投げるものです
じゅりのおばあちゃんも天国に行きました
りんのおばあちゃんも天国にいくのです
子供の成長と老人の退場、つまり時代が変わるという予告でもありました
家族はおばあちゃんが葬式代くらいはでる保険に入っていたことを知っています
でも、年金が止められないように死んだことは隠さねばなりません
だから床下に埋めます
でも死体遺棄ではなく、本当の意味の家族葬でした
おばあちゃんを本当に愛して悲しんでいる家族だけでお葬式を出してあげたかったのです
捨てた人は他にいるんじゃないですか
捨てられたおばあちゃんを拾って、愛している人間だけで立派な葬式出してあげたと言外に言っていました
本当の葬式をだしたら、愛しても悲しんでもくれない人がくるだけです
そんなことおばあちゃんは望んでいないと思ったのです
そんな人が喪主になるのです
海街diaryのすずの継母を思い出しました
じゅりはあの時死んだから、じゅりの家にいるのはりんです
りんは、もう悪くないのに謝らないし、叩かれるなら服もいらないと言えるのです
叩かれるのは可愛いいからでは無いことを、母ちゃんに教えてもらったからです
戻りたいといったのは、じゅりではなくりんです
じゅりの家ではなく、りんの家に戻りたかったのです
りんの母ちゃんに会いたかったのです
ニュースを知って一回帰るか?と父ちゃんにいわれた時、ゆりの足は椅子の足に帰りたくないと巻きついていました
それほど素晴らしい家族なのです
うちらじゃ駄目なんだよ
子供の幸せを願う母の言葉でした
セミの脱皮のシーンは祥太の成長の予感を表現していました
わざと捕まろうとしたと
つまり、自分でこの家族を終わらそうとしたと、ひとつの布団の中で父に打ち明けます
それでも絆は切れるものでは無いし、それを切ろうとした行動ではないのです
それを父にわかって欲しかったし、父もわかってくれています
降り積もった雪は、大事な家族の思い出が雪となって積もったようです
父と作る雪だるまは親子の絆の再確認でした
父ちゃんがおじさんに戻ったところで雪だるまは溶けずに残っているのです
子供は成長していつかでていくものです
それでもバラバラになって暮らしていくことになっても家族は家族なのです
息子を乗せたバスは父を追い越して走り去って行きます
息子は父の背を乗り越えていくものです
別れの悲しみにたえて祥太は涙を見せまいと父ちゃんを見ませんが、やっぱり小さくなっていく父を見ずにはいられませんでした
目に焼き付けようとしているのです
マンションの1 階のベランダで遊ぶのは、じゅりではなく、りんでした
ベランダの柵の隙間から覗く様子はまるで牢獄の中に閉じ込められた囚人です
りんは踏み台に乗って柵から身を乗り出します
まるでこれから囚人が脱走しようと柵から身を乗り出したようにみえます
そこで映画は終わります
頑張れ!りん
万引き家族は、本当の家族だったのです
数々の世界的な映画賞を総ナメにするのは当然のことです
映画史に残るような永遠の名作です