「反動は大きかった」IT イット THE END “それ”が見えたら、終わり。 snagaiさんの映画レビュー(感想・評価)
反動は大きかった
前作を踏まえ本作について良い所・悪かったところの感想を書いていこうと思う(悪い所が多く感じられるのでファンの方は読まないほうがよい)。
メイン州デリーにおいて,一定周期ごとに表れる存在。恐怖をパワーとして吸い取り,人々を狂気に陥れ殺害していく「IT」,正体不明のそれは代名詞でしか呼ぶことができない。いじめられっ子の集団「ルーザーズ」はある時その存在に気づき,恐怖と対峙し「IT」を打倒する。しかし,27年後,「IT」は再び現れた。万一を考え,デリーに残っていたマイク(イザイア・ムスタファ)は,街を出た皆に召集をかけるが……
前作(第1章)では,子供時代のルーザーズが勝利する,ホラー要素もあるがアクション・青春映画要素も強く含まれ,カタルシス(およびホラーでは定番の続編要素)があるさわやかな後味だった。本作でもそれは引き継がれているのだが,構成の悪い部分ばかりが目に付いてしまう。
彼らは(マイクを除き)街を出て成功者となっている。当然ながら,嫌な思い出(または死の予想)しかないデリーに帰ってくる義理はない。「忘れていた」ということにされているが,連絡を受けて自殺してしまうスタン(アンディ・ビーン)の理由はよくわからない。その後の喧嘩からの団結も,ストーリーとしてはありきたりで面白くはなかった。
儀式を行って「IT」を封じ込めるという話に至っては何をかいわんやだ。そんな簡単な方法なら今までに誰かが達成しているだろう。最後まで正体不明なのが恐怖につながるはずなのに,そんなにあっさり終わらせてしまってよいのか。決戦に至っては痛々しさしか感じない。
良いシーンももちろんある。ベン(ジェイ・ライアン)とベヴァリー(ジェシカ・チャステイン)のロマンスとか(もっとも,やはりイケメンに限るというやつか,とは思った)。冒頭で集団リンチに遭うゲイのカップルのシーンなどは,ザ・デリー,という感じでとても好印象だった。あと犬はかわいかったですね。
27年周期という設定があるため致し方ない部分はあるが,とはいえ時代は原作と合わせないとどうしてもピンとこない。前述のリンチのシーンで言っても,2016年よりは1984年(原作)のほうが,ステレオタイプにしてもリアリティがある。やはりセットを2時代作るのが面倒だったのだろうか。
全体的な演出も,子供時代と大人時代では違う怖がらせ方が必要なはずだが,むしろ大人時代のほうが陳腐な手法になっている。それはたしかに,現実でフォーチュンクッキーからエイリアンが出てきたらたまげるが,そういうのは低予算映画でやるものだ。映画館ではホラーシーンで何度も失笑が漏れていた。ひっそりしずかに,真綿で首を絞めるように恐怖を伝播させていってほしかったのだが,尺の都合か脚本のせいか,すべてがバラバラでちぐはぐだ。トラウマや劣等感を持ち続け,それゆえに現在の人生がある,という根本的な部分がほとんど描写されないため,場面が飛んでいるように見える。
いじめっ子側の首魁であるヘンリーや,ベバリーのDV夫であるトム・ローガンをもっと動かして活躍させたほうが,恐怖度は上がったのではないだろうか。特にヘンリーはあんな使い捨てのしかたはもったいないし,もうちょっと格好良い役者および配役でやってほしかったところ。
ちなみに同行者(ホラー苦手)は前作も観ていたが,「前作より怖くなかったけど,前作だけで良かった」とのこと。
公開初日は極めて眠かった&次の日早朝から予定ありでさっさと帰りたかったのだが,無理を推して観に行ったことは後悔だ。総合的に言って「いつもの通り失敗したスティーブン・キングの映像作品」としか言いようがないため,原作至上主義者または原作と映画を切り離して観られないタイプの方には,絶対に観てはいけない,と助言する。
確かにIT(原作)の映像化は特に最後が難しいだろうことは,想像に難くないが,もう少しやり方はなかったのかと惜しまれてならない。
原作の良さをいささかも損なうものではない(原作が書き換わるわけではないし,ついでに売れるので)ことが,キングファンとしては救いだ。