「これは子供時代のトラウマを克服して大人になる映画なんだ。だからせつなくて懐かしい。」IT イット THE END “それ”が見えたら、終わり。 高武蔵守師直さんの映画レビュー(感想・評価)
これは子供時代のトラウマを克服して大人になる映画なんだ。だからせつなくて懐かしい。
「It イット」続編というか完結編というのか。夜中にIMAXで見てきました。怖え! めっちゃ怖え!
隣で「ジョーカー」もやってるので、この秋はピエロ頂上対決だな。
実のところ、前作(子供編)がどんな話だったか、結構忘れていた。なんか子供たちが悪のピエロをやっつける話だったっけ。
でも、大人になった彼ら「ルーザーズ(負け犬クラブ)」も、昔のことをほとんど忘れてる、ってのが、こっちも助かった。昔の事件を一人ひとり思い出しながら進行するので、こっちも「ああ、そうだったそうだった、こんな話だった」と思い出せる。いい構成だね。そのかわり、長い! 三時間って! 六人の大人が、自分の子供時代の「トラウマ」を掘り起こしていく、そのひとつづつがやたらヘビー。そりゃ忘れたいよな。でも、それを掘り起こしてカタをつけなければ、彼らは真の大人にはなれないんだよ。
だから長いのは仕方ないし、実際飽きない。
これはつまり、そういう話。映画の種類としてはリアルに怪物が暴れまわる古典的ホラーだけど、その本質は、「子供時代の辛い体験を、思い出し、正面から向き合い、カタをつける」という物語、と見ました。敵のぺニーワイズというピエロ(英語ではみんなクラウン、クラウンって言ってるのに字幕は執拗にピエロなのが、ちょい可笑しい)は「少年(少女)時代のトラウマ」というものの象徴であり、その攻撃というのはエヴァンゲリオンでいう「精神汚染」ってやつだ。なるほど、ピエロは「使途」なんだな、それがこの映画ではたまたまピエロの形を取ってるだけなんだな、って思えば、エヴァファンの日本人は、わかりやすい。
たとえば、紅一点ベバリーは、初登場シーンで「金持ちだけど嫉妬深くて暴力的な、愛の押し売りのDV夫」に苦しんでいるのが描かれるけど。映画が進むと、彼女は実は子供時代に父親から「同じような仕打ち」を受けていた、という「イヤーな記憶」が蘇る。このトラウマにカタをつけないと、彼女は人生を打開できないだろう。あーなるほどそういう物語なんだ、とみました。
ただお化けが怖がらせるだけのホラーだったら面白くもなんともないんだけど、これは子供時代のコンプレックス、親の虐待、罪悪感、みたいなものを、真の大人になるために克服していくって物語なんだ。スティーブン・キングの物語は、そこがいいんだ。これは「スタンド・バイ・ミー」と同じ種類の映画なんだ。