「恋をしようよ」心と体と kkmxさんの映画レビュー(感想・評価)
恋をしようよ
夢占いとかはできませんが、本作で描かれた2頭の鹿が雪に覆われた森の中で優しく触れ合う夢は、主人公の2人に対して「恐れないで恋をしようよ」と伝えているように感じました。上質なラブストーリーだな、との印象です。
ヒロインのマーリアがとにかくいじらしくて可愛いです。可愛らしさは『恋の惑星』のフェイ・ウォンに迫るレベル。マーリアは非常に繊細であるがゆえに人との接触に恐れを覚えていますが、一生懸命にそれを克服しようと頑張っている姿にキュンとします。レゴを使っての対人コミュニケーションの練習をするシーンとか接触の練習シーンとかは、とにかく健気で可愛いい。その姿が本当に真剣だからピュアな魅力があるように感じました。
一方、エンドレおじさんは微妙でしたね。久々のガチ恋で恐れてしまったのか、マーリアとのやりとりで過剰反応して冷たい態度を取ったりと、だいぶ年上のクセに包容力がなさすぎ。投げやりになってセフレ呼んで夜中に帰そうとするなど、結構なドグザレ野郎です。
おそらくエンドレは心の奥底で「自分は愛される資格がない」という信念に縛られているタイプで、これまでも同じパターンで恋をぶっ壊して来たのでしょう。片腕が不自由なため、『心の不自由さ=マーリア、体の不自由さ=エンドレ』の図式が成り立ちそうですが、いやいや、エンドレも十分心の問題を抱えてましたね。今回彼が勇気を出せたのは、不器用な者同士の恋だったので、ペースが合っていたのかもしれません。
マーリアは関係性への恐れ、エンドレは恋への恐れを抱いているため、夢の中の鹿のように安らかに触れ合うことができません。鹿の夢は、大丈夫、触れ合えるんだよ、と2人に教えてくれているのだな、と思います。そしてそれこそがこの映画の主題なのかなぁ、なんて感じています。
丁寧な作品ですが、演出面ではやや気になる面も。マーリアのサヴァン症設定とか微妙すぎます。発達だから特殊能力あり、みたいな描写は時代遅れ感あり。しかし、もっとも顕著なのは薬盗難事件の際に登場した女性分析医。
あの状況で性や夢の話を聞くというのも変だし、性にまつわるステレオタイプな質問自体が意味不明(今更精神分析への批判?)。そして情緒不安定でエロを強調しているも色気ゼロというバカ丸出しのキャラ設定。そのくせ最後は意外とまっとうなことを言ったりして、アイツなんなんだ!
マーリアとエンドレの夢が同じだ、ということを両者に判らせるためのマクガフィンなのかもしれませんが、この静謐な映画の中で浮きまくりです。まぁギャグなんだろうけど、あまりにも違和感が強い。アイツの存在は永遠の謎です。