「彼女を「不思議ちゃん」で片づけないで欲しい。」心と体と 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)
彼女を「不思議ちゃん」で片づけないで欲しい。
こんないい映画のレビューがまだないのに驚くが、まあいいでしょう。
いろいろこの映画についてのレビューやらを見受けるけど、概して主人公マーリアを「不思議ちゃん」扱いしている向きがあり、それが残念。できれば、いい女ぶってるとか、恋愛に鈍感とか、そういう視線で見ないで欲しい。はっきり言う、彼女は健常者ではなく、アスペルガー症候群であることを。知能はけして低くなく、むしろ特定の分野において特出した能力を持ち、その分、他人の気持ちを察することが不得手であったり、何かに固執したりする特性があるのが彼ら彼女らなのだ。それに気付けば、定期診療を受けている医師の存在や、一見不可解な彼女の行動が理解できるのではないか。ソーシャルスキルが欠如した彼女は、世間に適応する方法として、人形やぬいぐるみを使ったシミュレーションをして「予習」をするのだ。僕は、それらのシーンを見ながら泣いてしまった。彼女が自分を知っているからこそ、片手の不自由なさえないオッサンのエンドレとの距離を近づける努力が健気なのだ。
たぶん自分の感情さえもコントロールできない彼女は、自然に笑うことなんてしたことがなかっただろう。だからこそ、最後に柔らかい笑顔をエンドレと交わす姿が、とても情熱的にみえた。彼女が自分の心に素直に笑えたからだ。そして、こぼれたパン屑が気になるところが、結局彼女は彼女のままだってことで、こんな彼女をこのまま受け入れられるかなあ?と心配になりながらも、彼女のようやく見つけた幸福を祝わずにいられない気分だった。
>きりんさん
親御さんの愛、全くその通りだと思います。たぶん彼女は、その存在が疎まれる環境に居ながらも(つまり学校でのいじめとか)、しっかりと愛を与えてくれる人がいたんだろうなあ、と思わせてくれますね。
はじめまして。
この映画が(少なくとも映画中では)バッドエンドにならなかったのは、対人関係障害を持つマーリアがおそらく、確かに、親御さんから愛されて大切に育てられてきたバックグラウンドがあったからなのだと僕は思いました。
つまりエンドレの「愛しています」の電話の声に彼女はポジティブに反応出来てリストカットを中断。嬉々としてエンドレの元に走れたからです。
生い立ちにもDV・ネグレクト 等問題があってしまったのなら、彼の電話も空振りとなりあまりにも残酷な暗い結末になったかもしれませんね、そこは僕は本当に救われました。
マーリアのご両親も娘の変化をどんなにか喜んだだろうと、観賞後いろいろ思いが及びます・・
社会に適応することが普通にできない彼女が、自分の負っている難しい特質を承知で彼に心を寄せていく不器用さな様子を、それを受け入れる彼の立場と同調させながら波が小刻みに押し寄せるように描いている。余韻の美しい作品。