「夢の国のそばでアメリカのリアル」フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
夢の国のそばでアメリカのリアル
ウォルト・ディズニー・ワールド・リゾートが所在するフロリダ州。夢の国の近くにあるモーテルが物語の舞台。ストーリーと呼べるものはあるようなないような。ただひたすらそのモーテルの中で起こる出来事が積み重なっていく。ディズニーが夢の国でモーテルが現実社会だ、と対極的に解釈することは簡単だが、この映画の場合、視点を子どもに置いたのがポイントで、子供の目からするとディズニーもモーテルも同じように不可思議で奇天烈なファンタジーの世界であり、変わりない遊び場である。私も子供のころ、お金のかかったアミューズメントもその辺に落ちていた木の枝も、遊び道具としては同じ価値で、まったく区別なく遊び楽しんでいたなぁと思い出す。この映画の「目」になる少女ムーニーが見るフロリダの風景は、ラベンダー色のモーテルも、パステルカラーの古い家も、ネオンで囲われた看板も、まるでディズニー・リゾートの中にいるかの如くカラフルで、毳毳しくて、嘘くさい。フロリダをカラフルに切り取ることで、夢と現実の境界線をわざと曖昧にし、夢の国を皮肉るでもなく、社会を風刺するでもなく、しかし夢の国をどこかで皮肉り、アメリカをさりげなく風刺している。
少女ムーニー役のブルックリン・プリンスちゃん(なんて可愛い名前!)が、映画の中で本当にキラキラと輝いていて、実に子供らしい子供の姿で登場する。子役臭さが全くなくて、てっきり台本もなにもなくてただただカメラの前で好き放題遊ばせてそれを勝手に撮影していただけなのでは?と思うほどだったのだけれど、最後、友達に涙ながら言葉にもならない「バイバイ」を告げるシーンを見て、いやそんなわけはない!と確信。あのラストシーンは、その意味が理解できていなければ表現できるはずがない演技だ。彼女はシーンの意味を理解して、それを「言葉にならない」様子まで演じて見せた。なんだか末恐ろしい子役を見てしまったという感じ。
そして、モーテルにやって来る様々な事情を抱えた客人たちを、時に厳しく常に温かく見守るウィレム・デフォーの存在感に胸が熱くなる。特徴のある容姿とクセのある演技から悪役や奇人役が多い役者さんだけど、今回はその強面の奥から溢れ出る優しさで作品を包み込み、ピリリと引き締めもする。突飛な芝居は一切使わず、ほぼ目配せだけでモーテル支配人の愛情を見せつけられた。さすがはベテラン。
現実も見方を変えれば夢の国だけれど、子どもたちには本当の夢を見てほしいと思ってしまう。でも本当の夢ってなんだろう?安全で安心な夢?少女が母親と過ごした最後の夏は、夢みたいな日々だったけど、同時に不安や恐怖と隣り合わせでもあった。これからも母親と生きていくのが幸せか、母親を引き離されるのが幸せか、何が夢で何が現実か、何が真実で何が魔法なのか。考えれば考えるほど、分からなくなりそうだった。