「不快アトラクション」ザ・スクエア 思いやりの聖域 chibirockさんの映画レビュー(感想・評価)
不快アトラクション
ただタイトルだけで、前知識なしで観に行ったので余計に仰天した。
人は、何かをしてあげたら何か返ってくるとどこかで見返りを求めている、それを認めたくないと思っていても。
その当たり前のように人間の奥底に根付いている深層心理がここで引っぺがされ、その状態で罵声を浴びせられ、触れられたくないところをまさぐられ、毛を1本1本抜かれていくような嫌な嫌な状況に追い詰めてくる。
観るものがどこまで受け入れられるか、耐えられるのかのサディスティックで不愉快な実験をされている、まさに体感型のアトラクション。
むしろ訓練?
劇中、不幸にもたった1人の男性、クリスティアンが受け止めることとなってしまったのは、なにがアートで、なにがヒステリーで、なにが思いやりで、なにが非人道的で、どこまでが言論の自由というもので守られて、どこまで寛容すべきなのか、すべてにおいて確実な答えなんかない、だから皆がこうしてあーだこーだ言って面倒なことになっていく現代社会の縮図。
たたみかけるような不愉快な出来事の襲来に、こちらはひたすら耐え、我々の先頭に立つクリスティアンの選択を見守る。
そして、自分だったらこうするけどな…と異を唱えてみたりする。
これはそういう訓練?だとしたら効果的だとおもいます。
観客10人弱のうち、少なくとも2人が途中退場…。
サラッと流れたけど、唯一クリスティアンの思い通りに動いてくれたのは、物乞いの男性。道行く、一見普通の人々は、誰もクリスティアンを助けてくれなかった。
社会の底辺で生き、無視される毎日を送るホームレスは、小銭を乞うていてもクリスティアンの荷物を盗むなんてことはせず、きちんと言われたとおりに待った(はず)。
普通に普通の生活を営み、親切だとか寛容だとかを声高に叫ぶ人間よりも、何も主張せずただただ必死で生きている人間が、本当の意味で普通であるという、ものすごく控えめなメッセージに見えた。
加えて、大炎上した展覧会のプロモーションビデオのおかげで、異教徒同士がタッグを組んで美術館に対し抗議…ここは誰の思惑の通りでもない、意外すぎる展開。
結局共通の敵がいる者同士なら同盟を組めてしまうということですね。
しばらく混乱して疲れたら、つべこべ主張ばっかりしてないで、目の前の人が困ってたら助けるとか、自分なりの良いやり方でやってくしかない、と腹をくくる事となりました。
ちょいちょい、「スクエア」が象徴的に現れる。
この映画の象徴を視覚的に紛れさせてて、面白い。