「コミュニケーションの不可能性」ハッピーエンド ローチさんの映画レビュー(感想・評価)
コミュニケーションの不可能性
ひとつの家族の物語であるが、それぞれがバラバラで気持ちがつうじあっていないので、まるで群像劇を観ているような気分になる。家族は人が生きるうえで最小単位の共同体であるはずだが、本作ではそれすら満足に維持できていない。
本作の舞台は移民・難民問題に揺れるカレーという街だが、移民問題は遠景として登場するのみ。それよりも小さな単位の共同体の家族にもっぱらフォーカスしている。そしてその家族が壊れている。複雑な問題をたくさん抱える欧州だが、コミュニケーションの不可能性は、家族にまで及んでいる、あるいはコミュニケーション可能だという幻想がここまで剥がれ落ちているのだとすれば、移民や多文化の共生など考えうるのか、もはや現代人はそれ以前の問題に直面しているのではと思わせる。
イザベル・ユペールとジャン=ルイ・トランティニャンは相変わらず素晴らしいが、本作は子役のファンティーヌ・アルドゥアンの存在感がひときわ光った。新しいスター俳優の誕生かもしれない。
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