「それぞれの家族にそれぞれの幸せ」かぞくいろ RAILWAYS わたしたちの出発 おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)
それぞれの家族にそれぞれの幸せ
都会の喧騒を離れた、何の変哲もない田舎の景色の中を、ローカル鉄道がたった一両で走っていく、そんなノスタルジックな情景が、本作の全編にわたって描かれています。それは、単に風景としてだけではなく、人の生き方、家族のあり方についても同様で、見ている者の心に緩やかに染みてくるようでした。
有村架純さん演じる晶が、亡くなった夫の連れ子と一緒に、夫の故郷の鹿児島にいる義父を訪ねるところから、物語は始まります。のどかな田舎の情景と相まって、実にゆったりと展開していくのですが、決してテンポは悪くなく、むしろ心地よくさえ感じました。いつのまにか作品世界に誘われ、自分もその町の住人にでもなったような気持ちで、突然家族になったこの3人の行く末を見守っていました。
有村架純さんは、姉のように息子に接する姿と、母親になろうと気丈に振る舞う姿とのメリハリがとてもよかったです。國村隼さんは、イメージ通りの役どころで、温かみのある義父として、ベテランの先輩運転士として、息子の嫁と孫をしっかりと支えています。歸山竜成くんの演技からも、継母との距離感、亡くなった父親への思いが、ひしひしと伝わってきました。
そんな3人が演じ、泣かせてやろうというあざとさがないぶん、序盤からラストまで、気を緩めれば泣かされ通しでした。バッティングセンターでのシーンや、運転士合格のお祝いシーンなど、何気ないシーンにこそ家族の絆が見え隠れし、本当に温かい気持ちになり、自然と涙があふれてきました。ただ、学校の「半成人式」だけは興ざめでした。今どき、あんな配慮のない学校はなく、あのシーンだけはあざとさを感じてしまいました。歸山竜成くんの演技がよかっただけによけい残念でした。
他にも回想シーンが多く挿入され、それらが効果的に現在シーンに絡み、描かれていない部分の時間も観客に想像させ、多くの時間とそこにある思いが、「他人」を「家族」にしていったのだと思わせてくれました。少子高齢化、核家族化、LGBT等、今後ますます多様な家族が増えていくと思いますが、それぞれの家族にそれぞれの幸せがあらんことを願わずにはいられません。
余談ですが、「西郷どん」のおかげで、この一年は鹿児島弁に耳が慣れ、本作での方言が実に耳ざわりがよかったです。青木崇高さん、桜庭ななみさんを見ながら、そんなことを思い、鹿児島を訪れてみたくなりました。
コメントありがとうございます。ネタバレしないように詳細を伏せて書いたため、誤解を招いたようですみません。半成人式のような行事が全国的に行われていることは承知していますし、私の地域でも「2分の1成人式」の名称で多くの小学校で行われています。ただ、どこの学校でも、家庭の事情には相当な配慮をして行っています。
しかし本作では、作文執筆中の子どもへのいたわりがないどころか、大勢の前で晒し者にするような場面まであり、そこに「配慮がない」と感じたわけです。そして、制作側があえて「学校の配慮不足」を設定し、感動演出のためにあの場面を入れてきたことに「あざとさ」を感じたわけです。とくに本作では、実在の小学校で撮影されていたので、その学校の名誉のためにも、「今どき、あんな配慮のない学校はない」と言いたかったのです。
鹿児島出身者です。半成人式…良いか悪いかは別として、鹿児島では多くの小学校で映画と同じような形で実施しています。丹念に取材されての制作だと思います。他にも、立志式(昔の元服にあたるもの)も多くの中学校で行われています。