「過ちから正し、培われていく信念」ローマンという名の男 信念の行方 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
過ちから正し、培われていく信念
『フェンス』に続き、デンゼル・ワシントンがオスカーにノミネートされながらも、またしても日本未公開となった本作。
本国アメリカでも決して作品評価は高いものではなく、興行的にも不発。デンゼルの演技は絶賛されたものの、『The Disaster Artist』のジェームズ・フランコのスキャンダル疑惑が無ければ彼がノミネートされて、デンゼルはノミネートされてなかったくらいのギリギリライン。
デンゼルの数ある主演作の中でもあっという間に忘れられるというか、ほとんど知られていないくらい地味っちゃあ地味だが、個人的にはなかなか見応えあったと思う。
人権派弁護士のローマン・J・イズラエル。
弁護士としての才能はあるものの、長年法廷には立たず、恩師である弁護士のパートナーとして、裏方に徹してきた。
ある日、パートナーが病に倒れ、赤字続きだった事務所の閉鎖が決定。
彼の才能を高く評価したエリート弁護士に引き抜かれ、その下で働く事になるが…。
何と言っても、デンゼルの凝った役作りや演技が見もの。
スターオーラを消し、体重を増やし、冴えない風貌。唯一目立つのは、アフロヘアだけ。
ローマンの人物性格も、口下手、人付き合いが苦手、時々まどろっこしい言い方もする。余計な事を言って相手に毛嫌いされる事もしばしば。
が、金や自分の名声なんかより、依頼人の身になって親身に真剣に向き合ってくれる。
何より、どんな些細な間違いや不正に黙っていられない。
長年、司法制度変革案を書き溜めている。
メチャ頼り無さげではあるが、ついこの弁護士に相談したくなる。
数々の名作での名演、現在公開中の『イコライザー2』などで披露しているキレッキレのアクションも素晴らしいが、デンゼルの人柄滲み出る役柄に感じた。
そんなローマンに運命の分かれ道が…。
表舞台に立って改めて知った、司法の現実。
ビジネス優先。間違いや不正など誰も気にも留めず、指摘してもその声は一切届かない。
生真面目な自分だけが馬鹿を見る。いつだって貧乏くじ。
法の世界に全てを捧げてきて、家庭は持たず。狭いアパートに帰れば、寂しい独り暮らし。隣は夜なのに条令違反の工事中。
何故、自分だけついてない…?
周りの弁護士は皆、甘い汁を吸っている。
恩師と二人三脚でやってきたこれまでの険しい道、何より確固たる信念は理想に過ぎなかったのか…?
彼の中で何かが崩れた…。
弁護士でありながら守秘義務に違反してある密告をし、懸賞金を手に入れる。
初めて甘い汁を吸う。
これは、恵みなのだ。
誰かだってやった事ある筈。
自分もその大勢の中の一人になっただけ。ちょっとおこぼれを頂戴しただけ。
…が、元々生真面目な善人がそれに耐えられる訳が無い。
ヤバい筋に命を狙われる事になるが、それ以上に、自責の念に押し潰される…。
人は変化する生き物だ。
環境や境遇に応じ、変化を受け入れるのは人として自然な事だ。
が、自身の信念を偽ってまで変化したら、自分が自分じゃなくなる。
ローマンはローマンだから良かった。
周りの色に染まった彼に、相談したいという気持ちは薄れてしまった。
変化と言えば、ローマンを引き抜いたエリート弁護士。
当初はビジネス優先。
が、ローマンの信念に触れ、考えが変わり始める。
ビジネスも大事だが、ローマンのように依頼人の立場に立ち、無料相談を始める。
時にローマンと意見が対し、やがて彼を信じ、彼を案じる。
コリン・ファレルが好演。
変わりはしなかったが、人権運動団体の女性は、次の世代のローマンだ。
愚かに変わってしまったのは、他でもない、自分だけなのだ。
人は弱く、脆い。
幾度も迷い、悩み、躓き、挫け…。
ならば、信念は何処に…?
…いや、確固な信念など元々無いのだ。
過ちに気付き、後悔し、正す。
そうやって信念というものは培われていく。
そんな人間臭い信念こそ、信じ、引き継がれていく。