劇場公開日 2019年2月8日

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「人間の偉業をリアルに描いた名作」ファースト・マン アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0人間の偉業をリアルに描いた名作

2019年2月10日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

興奮

知的

幸せ

2D 字幕版を鑑賞。原作は未読である。アポロ 11 号の船長ニール・アームストロング飛行士が,ジェミニ計画を経てアポロ計画を遂行するまでが非常に丁寧に描かれている。本作の特徴は,宇宙開発や宇宙飛行士を綺麗事で終わらせず,作るのも乗るのもどちらも人間であることを徹底的にリアルに示しているところである。全編を通して多用してあるのは,船内にきしめく金属音で,これこそが頼りない人間の作ったものであることを象徴的に示すものである。それを信用して命を預けなければならない主人公の苦衷と覚悟のほどが痛いほど伝わってくる大変な傑作であった。

ライト兄弟の初飛行が 1903 年のことであるから,この時期は,人間が空を飛べるようになってから 60 年と少ししか経っていない訳で,ソ連との宇宙開発競争で負け続けていたアメリカは,威信を回復すべくかなり無理のあるペースでアポロ計画を進めていたのが察せられる。宇宙船に搭載されたコンピュータは 2 MHz クロックの 8 bit CPU で,メモリ容量がわずかに 4 kB という華奢なものであり,身近な例で例えれば,CPU は初代のファミコン程度,メモリ容量は初代ファミコンの倍程度という代物であった。

ちなみに,このコンピュータのプログラミングを行なったのが,NASA の伝説の女性プログラマとして知られるマーガレット・ハミルトンで,誤った操作をしてもプログラムが停止しないようにという「フール・プルーフ」を搭載しており,さらには月までの飛行のオート・ナビゲーションまで搭載していたというのであるから,驚嘆すべき優れもののプログラムであったことが察せられる。映画の中でも度々出現している「1202 アラート」というのは,大量のデータ入力による暴走を回避するために,自動リブートをするためのものであったことが知られており,その原因は,月面着陸時に切断するはずだったレーダーの入力値を切らずに使用したためであったことが現在では判明している。すなわち,正常な動作だったために「問題なし」だったのである。

決して多くを語らない主人公は,あたかも日本の武士のようであり,一方,言葉にしなければ何一つ推察しようとしない典型的なアメリカ女として描かれた彼の妻は,率直にいって男を萎えさせる最低の女にしか見えなかった。事故死した同僚やその家族を丹念に描いているために,彼女の不安や万が一の時の恐ろしさは非常に身近なものとして察せられるので,あの彼女の態度は責められるべきではないのかも知れないが,出発を前にした夫にあのような態度を取るというのは,あまりに自分のことしか頭になく,相手を思う心に全く欠けていると言わざるを得ない。

ライアン・ゴズリングが演じたアームストロング船長は,風貌も似たところがあり,決して激昂せず常に冷静な人柄が察せられる良い演技であった。彼の妻役の女優は,見たことのない人だったが,私にここまで嫌悪感を抱かせるとは,相当な演技だったということだと思う。登場人物の人間臭さが感じられなければこの映画は成立しないので,立派なものだというほかはない。音楽は,「ラ・ラ・ランド」と同じ人で,非常に良い曲を書いていた。特に,エンドタイトルで流れるハープとテルミンの二重奏は,いかにも宇宙を感じさせる音楽だと思った。

演出は,ため息が出るほど見事だった。物理現象の冷徹さ,事故の悲惨さ,宇宙の神秘と荘厳さ,いずれも肌で感じられるように映像化されていて,月面の静謐な世界は,息をのむほどであった。アポロ 11 号の月面着陸は,私が中学生の時の話であり,世界中が興奮した一大イベントであった。今から 50 年前のあの時の興奮をまだ覚えている人には,是非ともお薦めしたい作品である。
(映像5+脚本5+役者4+音楽5+演出5)×4= 96 点。

アラ古希
アラ古希さんのコメント
2019年2月19日

そうかな?自分が彼の立場だったら、邪魔しているだけにしか思えなかった。

アラ古希
nikuumaiさんのコメント
2019年2月18日

わざわざ仙台までIMAXを見にきました。

大変感動した映画でしたが、私の評価はちょっと違いました。

自分の抱え込んでいるもののせいで子供と真正面から向き合えない軟弱者の夫を、月に行く前にしっかり向き合えと叱咤激励して、飛び立たせてくれる気丈な妻に思えた。もしかすると帰ってこれないかもしれない。一番心配なのは妻だろう。けど気丈に自分の事はさておき子供に向き合わせるなんてほんと立派だと思った。

それと月面のシーンがあっという間でもうちょっと欲しかったのと、確かあの時は無線の応答があるまで八秒ほどのタイムラグがあったと記憶しているが、それが描かれていなかったので冗長にならず良かったと思う。

途中画面が揺れて船酔いみたいになったのは内緒にしておこう。

nikuumai