息衝くのレビュー・感想・評価
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原発の黙示録
私たちはある問題を語るとき、その問題と距離を取り、客観的に語れると思う。しかし、そんな超越的なポジションなどあるわけがないのだ。新興宗教「種子の会」の信者、古川は、役所の同僚とこんな会話を交わす。
古川「今の世の中をどう思う?」
同僚「どうって…」
古川「いい世の中だと思う?」
同僚「いいかどうかは分からないけど、みんな頑張ってるなって思う」
古川は「いいか悪いか」という価値判断を訊いているが、同僚は「みんな頑張ってる」という状況判断を答えている。そう、私たちは「この社会」を生きている以上、常に既に社会に組み込まれているので、宗教が可能にするような超越的視座には立てない。この社会の善悪を論じることはできない。できるのは、社会に内在する個人として主観を述べることだけだ。だから、「種子の会」のかつての中心人物だった森山は、失踪した自分に会いに来た三人が「自分たちの世界に帰る」と告げたとき、言うのだ。「ここも世界だ」と。そして原発の爆発のビジョンが表れる。森山は内在したピエロになったのだ。
宗教が原発というカタストロフを視野に入れたときの「チープな黙示録」が描かれた、俗人である私たちのための物語だ。
スカイタワー西東京
通称『田無タワー』の下で育った3人の子供が大人になってそれぞれ苦悩をしながら答えを探す内容。どこかのレビューで期待していなかったけど意外と面白かったということなので、それだけの情報だけで鑑賞したのだが、色々な面でかなり観にくい作品である。決してストーリーは悪くはない。その3人がある架空の宗教をベースに繋がっているので、その宗教色が色濃く影を落としている。多分、創価学会が元ネタなのだろうが、その宗教団体が政治の舞台に出る際に、3人の子供の内の2人の男が、その選挙対策活動に深く関わることになる。方やそのうちの1人の女の子は、自殺した母親の影を引き摺りながらも、子供をもうけ、しかし離婚をしてしまう。2人の男も又、1人はそのまま政治の世界へ。もう一人は余命幾ばくもない母親の看病の為、その団体からも足を洗う。
3人それぞれの社会との関わりの中での苦しさや辛さを抱えながらも与えられた人生を健気に生きていく展開は常に世知辛い雰囲気を漂わせる。その中で、3人が兄のように慕う、その宗教団体の元カリスマなる人物しかし失踪してしまった男を訪ねるシーンが後半演出される。決して答えが出るわけでもなく、理想と現実とのギャップに打ちのめされながらも、静かに耐えるそれぞれ3人。
久しぶりに会ったその兄とも、禅問答のような会話で、明確な出口も見えない。そう、結局は自分で答えを出すしかないということ。
かなり哲学的なコアで、この部分も難解さを極めるが、それ以上に、映像演出としての、シーンの目まぐるしい展開、時系列が前後に動きすぎるところ(男の手に巻いている包帯が有ったり無かったりで、話の前後を区別している等)、感情が昂ぶった時の叫びの台詞が全く聞き取れず、何を言ったか分からない点(子供時代に、田無タワーを観ながら何が見えると質問したのか 自殺した母親の娘が父親に何を叫んだのか)さっぱり分からず、多分核の重要な部分だと思うのだが、果たしてこれは俳優の力量なのか、演出なのか、理解が及ばない。テーマが難解なだけに非常に悔やまれる所である。病気で母親を亡くした男が、何故今まで宗教を続けていたのかの答えが、宗教こそ母親だったからという件は、非常に胸を締め付ける。だからこそ、もっと巧く映像作品として、ドラマとしてスマートにできたのではないだろうか。勿体ないと感じてしまった。
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