「独裁・専制は許さないと言っているかのような、報道の自由を賭けた戦い」ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書 asukari-yさんの映画レビュー(感想・評価)
独裁・専制は許さないと言っているかのような、報道の自由を賭けた戦い
アメリカの憲法は、大きく3つに分かれる。「前文」「本文(全部で7条)」「修正条項(現在27条)」。本文は修正されず、修正条項を増やすことで事実上の憲法改正を行っているそうなんです。そして、本作は修正条項の第1条について時の政府と争う新聞社とその記者たちの、権力に対抗するための権利を守る戦いを描いたシビアで味のある映画です。
ストーリーとしては、ベトナム戦争が泥沼化していた1971年。ベトナム戦争について詳細に記録・分析した最高機密文書「ペンタゴン・ペーパーズ」の存在をNYタイムズがスクープ。長期にわたり政府がアメリカ国民を欺いていた内容が暴露される。ライバルである地方紙:ワシントン・ポストもその文書を入手すべく奔走するが、NYタイムズは政府より裁判所を通して掲載を差し止められてしまう。もし文書を入手してもワシントン・ポストは同じ道をたどってしまうのではないか?しかしこの記事は是が非でも国民が知らなければいけない・・・。会社存続か、報道の自由か。社主であるキャサリン・グラハムは重い決断を迫られていた・・・てな感じです。
まず、役者がすごい。
亡き夫の跡を継ぎ、地方紙の社主となったグラハム夫人に名女優:メリル・ストリープ。スクープを叩き、記者としての矜持を守らんとする編集主幹ブラッドリーに名優:トム・ハンクス。政府の圧力と会社を守るための決断に押しつぶされそうな重圧に耐える演技に心を奪われ、権利を守るために上層部との衝突は意に介さない海賊のキャプテンのような雰囲気を纏った演技に、見惚れてしまう。それに脇を固める方々も、ちゃんと役自身が持つオーラをちゃんと纏っているかのように見えるので、それが合わさって物語に強い説得力が生まれてると感じる・・・
アンサンブルが最高なんですね。
また、この映画を監督しているのが名匠:スティーブン・スピルバーグ監督。観てて飽きない。見どころ盛り上がりどころをそつなく容赦なく、自然に見せてくる。まあ多少くどいんちゃうと感じる部分はあったけど、全体的にはなんの問題もなし。ちとメッセージ性が強く押し出されているのが気になる点でわあれど、かなり盛り上がる部分でもあるので中和されてるから良し。毎回見るたびに、見せ所がすごいなあと改めて凄さを感じる次第です。
しかし、確かに本作はメッセージ性の強い作品ではあるでしょう。それでも、この作品は意味のある作品ではないかと思うんです。
本作は、“報道の自由”という、権力に対抗する権利を守る戦いを全面的に出しています。また、報道の自由は修正第1条にあることから、アメリカの憲法の中でもとても大事な条項ではないかと思うんです。
アメリカ国内において、独裁・専制を許さないという姿勢を、映画を通して見せたかったのではないでしょうか?
本作が製作されたのは2017年、トランプ政権の時です。あの当時、政治家を経ず、過激な内容でどっちに転ぶかわからないような大統領に、釘を刺したかったのでしょうか?他方では、中国が世界の上位に台頭してきたタイミングでもあります。もしかしたら、いかに独裁が国民に対し怖いものであり、報道こそが権力を監視し暴走を食い止める大きな手段であると言いたかったのでしょうか?ここまでは自分の個人的な意見であり、想像の域を出ませんが。
そういった意味では、本作は報道の自由とは何かというのを、なかなかわかりやすく、力強く描いていると、自分は思うのです。政治について一つの思想を描いた作品として捉えていますが、面白さは十分。“映画から学ぶ”ということはたくさんありますが、本作はその好例ではないかと思います。
オススメです。