劇場公開日 2018年3月30日

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「報道の自由を守る熱き闘い」ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書 みかずきさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0報道の自由を守る熱き闘い

2022年3月31日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

興奮

知的

予想外にシンプルな作品だった。メリル・ストリープ、トム・ハンクス共演のスピルバーグ監督作品だったので、もっとエンターテイメント性の強い作品だと思っていたが、本作は、報道の自由を守るために闘った人々にフォーカスしている。静かな冒頭から怒涛のクライマックスまで、常に熱気を帯びながら、一気に魅せてくれる本格的な社会派サスペンスである。

舞台は1971年アメリカ。夫の死で図らずも新聞社ワシントン・ポストの社主になってしまったキャサリン(メリル・ストリープ)は、周りのスタッフに支えながら慣れない仕事を熟していた。しかし、ベトナム戦争に関わる機密文書をニューヨーク・タイムスがスクープ報道したことで、状況は一変し、ワシントン・ポストも追従し、政府と対峙しながらも隠された真実を報道すべきか否かで社内は真二つに割れてしまう。葛藤、苦悩しながらも、キャサリンが出した決断とは・・・・。

実話に基づいた物語であり、報道の自由を守るための闘いがメインストーリーとなると、気高く崇高なイメージが鼻に付きそうだが、スクープ合戦、新聞社経営、など現実感のある要素を巧みに織り交ぜて、リアルで泥臭い作品に仕上げている。

メリル・ストリープは、従来演じてきた力強い女性像ではなく、当時の女性の地位を象徴するような家庭的で優しい女性像を好演している。そんな彼女が、物語が進むにしたがって、逞しくなっていく姿は、当時から現在に至るまでの女性の地位向上の歴史そのものである。

トム・ハンクスも従来演じてきた物分かりの良い男性像とは異なり、形振り構わず信念を持って突き進んでいく、報道の自由への迸る想いに溢れる辣腕編集主幹を熱演している。

本作のメッセージは明確である。作品全体を通して、自由は他力本願ではなく、自らの手でしっかりと掴み取るものであること、リスクを覚悟して強い想いで挑んでいかなければ、自由は手に入らないことを強調している。報道の使命は、隠された真実を暴き、伝えることである。真実は時代を照らす光であり、光が無ければ、時代を見通すことはできない。時代を正しく捉えることはできない。真実を知るために報道の持つ意味は大きい。

本作は、1970年代の事件を描いているが、事件の内容は普遍的なものであり、現代に通じるものがある。いや真実が見え難くなっている現代の方が本作のメッセージは重要である。本作は現代への警鐘になっている。スピルバーグ監督の意図はそこにあるのだろう。

本作は、無茶苦茶、面白い作品ではないが、普遍性のある歴史の一コマを丁寧に描くことで、現代について考えさせられる貴重な作品である。

みかずき