「報道する者としての信念がぶつかり合う群像劇」ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
報道する者としての信念がぶつかり合う群像劇
「ペンタゴン・ペーパーズ」とはベトナム戦争にまつわる重要な機密文書のこと(これだけで邦題が総括できた)。そこには続ける必要のないベトナム戦争の真実と、歴代の大統領たちが国民に対してついてきた嘘が明らかになる内容が書かれており、それを暴くということは国を敵に回るということ。地元紙だの家族経営だのと揶揄されていたワシントン・ポストが大手タイムズと時に競合し時に手を組みながら、機密文書を暴き記事にしていく様をドラマティックに描いている。
というと、カトリック司祭による性的虐待を暴く新聞記者たちを描いた映画「スポットライト 世紀のスクープ」を思い浮かべるところだが、「スポットライト」が司祭の悪事をペンを用いて暴く様子をサスペンスフルに描いたのに対して、こちらの「ペンタゴン・ペーパーズ」はむしろ、一つの文書を取り囲み、新聞社・編集者・新聞記者・・・としての信念やプライドをじっくり見つめた群像劇のように見受けられた。それぞれが置かれた立場、そこで取るべき行動、その時に湧き起こる感情、しかし突き動かされる信念、報道の自由という概念などなどといったものが、主要キャストであるトム・ハンクスやメリル・ストループだけでなく、脇役のキャラクターたちからもエモーショナルに沸き立っており、人間ドラマとしての見ごたえを非常に感じた。
そういう意味で、法廷シーンがすっぽりと抜け落ちたのは意図的だったのだろうか?確かに、訴訟大国とまで揶揄されるアメリカだけに実録ものには法廷劇がつきもので、そういった映画はもはや飽和状態でそろそろいい加減見飽きたような感覚もあったのも事実だし、法廷劇に代わってしまうとドラマとしてのコンセプトがずれるような気がしないでもない。なのでこれはこれで良かったのかな?という風に思える一方で、何か重要なプロセスが省かれたような印象も残った。
もう「映画の天才」としか思えないスピルバーグはいくつになっても演出力に冴えがあって素晴らしい。ファンタジーもドラマもアクションもサスペンスもなんでも見事に捌いて魅せてくれる。その点では安心感と安定感は抜群だった。