「タクシー運転手の矜持」タクシー運転手 約束は海を越えて kossykossyさんの映画レビュー(感想・評価)
タクシー運転手の矜持
お客様を安全に正確に送り届けること。基本とも思えるこの姿勢を貫き通すことが前半で語られていたように思う。確かにソン・ガンホ演ずる運転手は長距離の客で一儲けしようという魂胆がありながらも、車に傷をつけないようにシートを被せたり、病人・妊婦にはドアサービスしながら手を貸すという模範的な部分も感じられる。お金がちょっと不足している学生にも、まぁ、個人タクシーだからできるのだが、サービス精神も持ち合わせる。
戒厳令が敷かれた光州がソウルとはかけ離れてるくらい別世界だったと気づいたマンソプ。客のドイツ人記者とも片言英語が通じないまま、通行規制をしている軍人とのやりとりも絶妙で、なんとか暴動の起きている光州に入ったのだ。徐々に民間人に対する軍人の行為の異常さに気づき、表情も変化し、夜になると命の危険も経験するのだ。
デモや抵抗を続ける民衆はソウルから来たタクシーと外国人記者を歓迎する。暖かい。ガソリンスタンドでも感じた市民の暖かさが都会であるソウルとは違っていた。お姉さんがくれたおにぎり。食堂でもオマケにくれたおにぎり。それもあってか、恐ろしい光州へと戻ってピーターを迎える決意をするマンソプ。病院で見る阿鼻叫喚の世界。ニュースでは嘘ばかり垂れ流すマスコミと現実とのギャップに自身の使命を感じたのだった。真実を伝えること、その記者を安全に運ぶこと。
ともかく死者154人負傷者3000人強も出した光州事件が教えてくれる史実に目をつぶってはならない。市民を守るべき武器を持った軍隊が、逆に市民を虐殺するなんてことはどこでもあり得ると歴史が証明している。それが隠蔽されることも繰り返されていることだ。勘違いしてる人も多いと思うが、軍は市民を守るために存在してるのではなく、国、国体を守ってるだけなのだから・・・。個々の軍人にとっても同じことで、終わってから、「上からの命令でやった」と言えば済むことなのだ。
映画の内容はわかりやすく、脚色もかなりされている。特に終盤のカーチェイスなんてのは娯楽性のため、自分をはじめ、史実を知らない人にとっても有難い作りになっていました。『光州5・18』とは違い、外から見た光州事件。残酷な描写に関しては今作の方が胸打たれるが、内側から見た『光州5・18』も民衆の気持ちになって追うことができて素晴らしい映画だった。最後にドイツ人記者の実際の映像にも感動しましたが、やっぱり本物のタクシー運転手は1984年に亡くなっていたらしい。