「ソン・ガンホの顔面演技」タクシー運転手 約束は海を越えて よしたださんの映画レビュー(感想・評価)
ソン・ガンホの顔面演技
光州事件。韓国の現代史における一大トピックとして名前だけは知っていた。だがしかし、当時の政府による一般市民への弾圧がこのようなものだとは思いもしなかった。丸腰の人々に向かって、自国の軍隊が発砲するなどという、想像するだけでも恐ろしい事態を、映画は映像化している。衝撃的だ。
このようなそら恐ろしい状況下で、理性を失わず、ユーモアも失うことのない地元の人々の姿に圧倒される。本当に強い者とは、ここにいる人々なのだと。
理性的な議論、信頼を生み出すユーモアが失われて久しい我が国のマスコミ文化とは対極にある。
歴史の悲劇であり、民主化の記念碑とも言える光州事件を題材にとることは、ともすると映画を堅苦しいものにするか、それとも一つの政治思想に肩入れするだけのプロパガンダに堕ちてしまうかの、どちらかになりそうである。
これらのリスクを無化しているのが、名優ソン・ガンホである。彼の大きな顔が芝居をするとき、韓国のみならず、この隣国においても、「いるいるこういう韓国のおっさん」という気分にさせてくれる。
ドイツ人記者が韓国を再訪したときに、このタクシー運転手との再会が果たせなかった。このことの本当の事情は誰にも分からない。
だが、きっとどこかでタクシーを運転しながら、記者の健在を喜ぶというエピローグで終わる。この終わり方を納得させるのもまた、ソン・ガンホの存在あってのことであろう。
弱さ、ユーモア、悲しさ、喜び、全てが炸裂する。正直で率直な快演だ。
韓国の名優さ何人かいると思いますが、その中でもソン・ガンホはピカ一ですねー。「JSA」「漢江の怪物」「弁護士」…彼の名演で作品の素晴らしさが確定的になった作品は多いですよね。
「1987、ある闘いの真実」を紹介するあるネット記事を読んだら、韓国でもこういった社会派の政権批判を含む映画に出ることは、結構、リスクがあるそうです。それでも、敢えて出演するという精神の強さが、韓国の若い世代にはまだあるのだということにも、驚きを感じるとともに、我が国は大丈夫なのだろうか?と心配になります。
〈ご参考〉
「韓国のタブー」を映画化 カン・ドンウォンは自ら「出たい」~「1987、ある闘いの真実」
https://globe.asahi.com/article/11799317