「あの兵士の物語も観たかった」タクシー運転手 約束は海を越えて kkmxさんの映画レビュー(感想・評価)
あの兵士の物語も観たかった
たいへん観応えのある、骨太な映画でした。
恥ずかしながら、光州事件のことは名前くらいしか知りませんでした。こういう軍隊が一方的に市民を弾圧した事件は語り継がれるべきだなぁと感じます。
そういう意味では映画メデイアはうってつけですね。虐殺シーンは適度な演出を加えて説得力のあるものに仕上げており、まさにこれが映像の力、映画の力だな、と痛感しました。有無を言わせずむごたらしさと怒りを感じさせられますし、未来をこのようにしてはいけないな、と問題意識も想起させられます。
そんな実話ベースの社会派映画ですが、きっちりとエンタメであり、全体的にはポップでキャッチー。終盤には派手なカーチェイスが待っていたりと、かなりベタな展開です。シリアスさとベタさのバランスが良く、それが本作を特別な映画たらしめているのかな、と推察しています。
ただ、個人的にはそのキャッチーさがイマイチでした。なんか深みがないと言うか、直線的なんですよね。いい者と悪者みたいな対立軸で。「シェイプ・オブ・ウォーター」のストリックランドみたいな私服警官?みたいなヤツが悪役として登場するのですが、わかりやすい悪って感じでねぇ。掘り下げもないし。
そして一番気になったポイント。
本作の終盤、光州の州境を守る兵士が、主人公とドイツ人ジャーナリストを見逃します。そのシーンが本作で最も印象に残った一方、最も洗練されず浮いている演出にも思えたのです。
この行為はとても意味ある感動的なもので、弾圧する側においても、人間的な情緒があることを表現しています。自分の役割を超えて人のため、良き世界のために行動できるという勇気を示す素晴らしいものです。
が、それだけパワーのある行為なんだから、洗練された演出が欲しかった。しかも、その後のハリウッド風味のカーチェイスで見逃しが物語的に無意味になっていますし。
もし、弾圧する側であるその兵士の物語も並行して描かれていたら、たいへんな文芸大作になったと思います。物語も二極構造ではなくなり多重的になってよりリアルになりますし、終盤の彼の中で生じた転回が圧倒的な説得力を持って迫るでしょう。それこそ、「スリービルボード」のオレンジジュースのシーンのように。
なので、ガツンとくる佳作ですが、かゆいところには手が届かなかったなぁ、なんて感想です。いや、でも満足度は高いですよ。
韓国映画ははじめてなので、ソン・ガンホさんもはじめて見ましたが、ヤング毒蝮三太夫って感じで味がありますね。光州のタクシー運ちゃんのボスも味があった。韓国のおっちゃん俳優は顔がスゲーですね。汚い。それが、めちゃくちゃいい!K-Popアイドルの完璧すぎるルックスとの比較がスゴい。韓国は両極端なイメージがありましたが、本作を観る限りだと、その仮説は現在のとろこ支持されています。