「ゆっくりとした静かな日常の物語」日日是好日 R41さんの映画レビュー(感想・評価)
ゆっくりとした静かな日常の物語
この作品の起承転結とは永い人生の物語。
同じ場所で同じ仲間が集まっても、同じものなど決してない。
武士道と同じ。「武士道とは死ぬことと覚えたり」
だからこそ、この二度とない今この瞬間を精一杯五感で感じようではないか。
日本のすべての教えのジャンルの中にある考え方であり精神文化であり、奥義。
しかし、いい話を聞いたと思っても、それを実行に移すことができない難しさ。
日常の習慣化された生活や、ルーティーンやタスク管理社会。
忘れてしまうのか、思い出せないのか、とにかく必要な瞬間にそれが出てこないほど、主人公にとって茶道が身に付いていないのだ。
ある日突然割り込んでくる些細な出来事はいつも「次回」に先送られる。
そしておそらく、前触れは必ず起きる。
試されている。私たちは常に「試されている」のだ。
頭の奥で感じる違和感。
気になるが、もうどうしようもない。
そしてそれは的中する。
後悔、慚愧の念。
もう一度出直さなければならない。
主人公のノリコにとって、お茶は人生を考えるためのアイテムだ。
彼女の人生の軸だ。
ノリコはそこまで認識していないが、頭の中がすっきりすることでお茶を続けている。
悩むときにはまたそこに戻ってくることで気分がリフレッシュされるが、さすがに婚約者の浮気と破断から立ち直るには時間がかかった。
しかしやがてまた新しい出会いがあった。
日日是好日
最後にノリコは「毎日がいい日」と心の底からそう思えた。
私はその解釈を「あるがまま」と捉えた。つまり、「何があっても大丈夫」という心構え。
ノリコとの比較でミチコが登場するが、ノリコはミチコと比較してしまうことで自己否定感を覚えるが、人生の長い時間の中でそれは解消されていくのだろう。
物語として、これといった出来事もないまま、この作品は終了するが、最後に24年後となる。
あの犬の茶碗。12年に一度しか使わない茶碗。先生が次回遣うときは100歳。
「次回このお茶碗を使える時、どんな世の中になっているのかしら?」
どうしても思い出さずにはいられない「JIN-仁」の武田鉄矢さんのセリフ「南方先生のいた世界は、太平の世ですか?」
思わずこみ上げるものがある。
そして二度とない今この瞬間を、毎年同じことのように繰り返すことのできる幸せ。
受け継がれていく精神。
少し敷居の高い世界であるかのようなお茶を、入門したての失敗を交えてコミカルに描いている。
茶道は、
ノリコの人生の中心軸。
自分軸。
そこに戻ってくるための手段がお茶。
それがやがて身に付き、どんな出来事があっても「大丈夫」になって行くのだろう。
樹木希林さんの遺作になったことで話題にもなったが、共演者たちは彼女のセリフがそのまま現実化したことに驚愕しただろう。
樹木希林さんとの共演は二度とないだけに、作品への想いも一入だろう。
二度と見ることのない樹木希林さんを偲びながら見させていただいた。
やわらかく優しい良い作品だった。
共感ありがとうございました。
映画の中で出てくる、フェリーニの「道」、私はHuluで観ましたが、とってもいい映画でした。アマプラでもみられますので、よろしかったらご覧下さい。