「すぐに分かることと時が経って分かること」日日是好日 soooさんの映画レビュー(感想・評価)
すぐに分かることと時が経って分かること
頭で考えずに体で覚える。慣れれば勝手に手が動く。五感を使って季節や音を感じる。同じ日は二度とない。
最近樹木希林の言葉に感銘を受けることが多く見てみたかった作品をやっと見た。もうすでに他界されていることが本当に惜しい。
幼少期に少し茶道をやっていたこともあって序盤から入り込んだ。一つ一つの動作が懐かしくこんなことやったなぁと自分の体験に重ねながら見た。
幼い頃はその所作の意味もお道具の種類もわからずただ言われるがままやっていたからお稽古に行くのがつまらなかったが、大人になってふとした自分の仕草にあの時のお手前の意味を感じることが多くあった。流れるような品のある仕草。一つ一つの所作に意味があったことを後から知る。道具も季節によって使うものが多くとてもお稽古で覚えきれなかったがなぜその茶器を使うのか、季節ごとの掛け軸や茶菓子の意味、全てのものに意味があって奥深い世界。貴族の道楽と言えばそれまでだけど、ただただ現代では必要のない手技をわざわざ習う人が絶えず継承されていくのはそういうことなのだろう。
黒木華の成長していく姿、特に自信がついてきてからのお手前中の姿はハッとするほど美しく流れるような所作に吸い込まれるようだった。師範を務めた樹木希林、視聴後知ったが茶道は初めてで稽古をしたことはなく直前に見本を数回見ただけで完璧にコピーして演じたというからすごい。それであの貫禄。名女優と言われ人々を魅了する理由がよくわかる。セリフは少ないが会えば包み込むような雰囲気と笑顔、そして一言一言に重みの意味のある言葉。同じ人が集まっても二度と同じ日はない。【どのような日も自分にとってかけがえのない一日である】という教えという掛け軸の言葉。刺さる。
『私は不器用で機転が効かない。ここにも私の居場所がない』何年も続けているお稽古なのに自分より後輩が自分より出来て自信を無くしたり恋人との結婚が白紙になり人生の真冬期状態の典子の呟き共感した。何もかも上手くいかず誰からも必要とされてないような目の前の道が見えなくなるような不安孤独。そんなシーンも淡々と流れ季節は春に向かう。
作中、父親が倒れるくだりはベタな流れだったが人生そういうものなんだろう。樹木希林と黒木華以外の脇を固める人物の描き方は少々雑だった感は否めない。特に美智子はもう少し何とかならなかったのかという感はある(少々デリカシーにかける点。毎週会っていたのに距離のある感じ)
淡々として盛り上がりはないが私は好きな作品だった。