劇場公開日 2018年10月13日

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「日々全てが、良き日」日日是好日 近大さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5日々全てが、良き日

2019年6月5日
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鑑賞方法:DVD/BD

泣ける

楽しい

幸せ

エッセイストである原作者の実体験に基づく、お茶の世界。
そんな地味な題材、映画になるんかい!…と思うなかれ。
しみじみと味わい深い、結構な…いや、素晴らしいお手前で。
これぞ、日本映画の良き心。
魅了された点は多々あるが、本作を格別なものにした今は亡き名女優について真っ先に触れたい。

樹木希林。
お茶の先生、武田先生を演じる。
お茶の作法や所作には細かく厳しいが、性格自体は朗らかで茶目っ気たっぷりでユーモラス。
名言もたくさん。
いつもながら、演技なのか素なのか、区別が付かないほど。
希林さんの為のような、ハマり役と絶品の名演。
死去してから今年、2本の出演作が公開されるが、本作こそ最後の作品に相応しいとさえ感じた。
希林さんは女優だ。だから、お茶の事に関しては素人に等しい。
なのに、劇中披露するお茶の作法や所作は、本当にその道云十年の先生のよう。
おそらく、相当稽古し、勉強したのだろう。
その陰ながらの努力を一切見せず、感じさせず、飄々と自分のものに。役作りを必死にアピールするハリウッド俳優とは正反対。
思えば、希林さんはいつだってそうだった。
本当のプロフェッショナル。
代わるべき存在が居ない、唯一無二の名優。
改めて突然の死を悼むと共に、数々の名演で魅せてくれた敬意と感謝を捧げたい。

お茶の世界は覚える事、やる事がいっぱい。
いちいち細かい作法と所作は勿論、それぞれの道具の名称、それぞれの意味…こんなに大変なのか!
自分だったら細かすぎて疲れてしまうだろう。
頭で考えるから、出来ない/分からない。身に付けば、自然と手が動く。
それが出来た時、作法や所作の何と美しい事!
お茶の世界って、深い。

本作は和の美を嗜む作品だ。
畳の茶室。
部屋から覗く庭。
掛け軸などの装飾。
和菓子は見た目も美味しそう。(自分、和菓子好きなので)
映像は美しく、音楽も美しい調べであったり軽快であったり。
何度も何度も“美しい”という言葉を用いて恐縮だが、本当にその美しさに心奪われる。
どちらかと言うとシリアスやハード系が多かった大森立嗣監督にとっても新境地。
もう一つ印象に残ったのは、“音”。
大臨場・大迫力の音とは全く逆の静かな音ながら、
水を汲む音、水が沸く音、お茶を点てる音、庭の水の流れる音、飲みすする音、水とお湯の音の違いに至るまで、全ての音が心地よい。
目を閉じ、聞き浸りたいくらい。

黒木華、多部未華子にもほっこり。
よく女優なのに美人じゃないと言われる二人だが、個人的にこの二人、個性的で魅力的で、女優としても非常に好きなんだなぁ…。
黒木は、自分の人生にさ迷い中のヒロイン・典子。
多部は、サバサバして自律性のある従姉妹の美智子。
本作は、典子の20数年に及ぶ物語である。

大学生時代、親に薦められて始めたお茶。
全然身に付かず、いちいち細かすぎて、正直うんざり。
続けられるのかなぁ…? と言うか、お茶をやってて何か得になるの…?
就職に苦労。やっと見つけたバイト。
悩み、面接や試験など大事な前日、途端にお茶を嗜みたくなる。不思議な事に。
典子の性格上、何事も長続きしないタイプだろう。
が、お茶だけは長く続いている。
自分の人生に多大な影響を与えた…などという、大それた事ではあるまい。
自然とスッと、自分でも知らぬ内に、お茶が身に染み渡っていたのだ。

時の移ろい、典子の悲喜こもごもの歩み。
仕事、失恋、出会い、そして別れ…。
お茶と絡めながら。
20何年も続けているお茶。
いつもと同じ、変わる事の無い。
しかし、決してそうではない。
その都度その都度点てるお茶に、二度と同じお茶は無い。
人生とて同じ。
よく変わらぬ同じ日常の繰り返しと言うが、全く同じ日など無い。
必ず毎日、何か新しい事、新しい日がやって来る。
それは、一期一会。
だからこそ、一日一日を、嗜みたい。

辛い事も、悲しい事も、
嬉しい事も、幸せな事も、
お茶を楽しく頂くように。
一生に一度きりの日々。
その日々に感謝。
その日々全てが、良き日。

近大
talismanさんのコメント
2021年1月12日

美しい和菓子が好き、だけでも、お茶を続ける大きな動機になりました。

talisman