「様式を愛で、二度と同じ日のない日日を祝福する」日日是好日 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
様式を愛で、二度と同じ日のない日日を祝福する
なんとも心地よい映画だった。毎日この映画を見ながら眠りたいと思えるほど。そして日本の文化の美しさに改めて気づかされた。お茶を立てる、という行為が持つ深く大きな意味を、私はこの映画で初めて知った。
私は茶道の経験がないので、冒頭の若い娘たちと同じ感覚でこの映画を見始める。
「お茶って変なの」と言ってくすっと笑う気持ちが少しわかるような気もする。決まりごとが多く、様式に則った動きをしてお茶を立てる。そのことに何の意味があるのか?と尋ねても、樹木希林さん演じる武田先生も口ごもって「そういうものなのよ」なんて答えたりする。しかしこの映画を最後まで見ると、様式に則りお茶を立てると言う行為の真髄が確かに見えて実感できるから素晴らしい。
私たちは、毎日似たような一日を繰り返している、ように感じている。今日一日を振り返れば、まるで昨日と同じ一日のようだったと思うし、明日のことを考えれば、まぁ今日と同じような一日だろうと思う。しかし、同じ日などは本当にまったく存在せず、一日一日少しずつ違う日が訪れている。春夏秋冬4つの季節より更に細かい二十四節季よりももっと細かい、言葉さえ存在しない単位で季節は365日移り変わっているし、その都度お茶菓子も変わるし、掛け軸の文字も変わる。茶器も変わる。装いも変わる。天気も変わるし、気がつかないだけで自分自身も変わっている。そういった変化に気づくためには、変わらない「何か」が必要だ。そしてそれが「お茶を立てる」という動作だと私は思った。お茶を立てるという動作は様式が決まっていて、毎回同じ所作をする。様式を愛でることで、日々の変化に気づき、また一日として同じ日のない今日という日を慈しみ祝福する。12年に一度巡って来る干支の茶器を見て過ぎた12年という歳月を想い今日という日を祝福する。仮に、辛い失恋や永訣の日でもその日を祝福する。辛い日もあるからこそ何事もない日の好さに気づきそれを祝福する。それがお茶を立てるという様式の美学なのだと、私はこの映画を見て初めて知った。
するとこの映画のタイトルを思い出す。
日日是好日。
二度と同じ日のない一日一日すべてが素晴らしき日である。
茶道。なんて美しい道だろう。
日本人であるというだけで、少し胸を張りたくなるような、そんな気分にさせてくれる映画だった。
映画の後の帰り道。私は無意識に背筋が伸びて、歩き方もいつになく上品になりました。